1
00:00:01,022 --> 00:00:09,000
モニターは16対9に設定して下さい
2
00:00:46,818 --> 00:00:54,150
欧州大陸の東の果て 旧ズブロフカ共和国
かつて皇帝のおわした所
3
00:00:54,200 --> 00:01:01,540
[旧ルッツ墓地]
4
00:01:29,150 --> 00:01:31,150
[我らが文豪を追悼す]
5
00:01:31,940 --> 00:01:33,740
[作家]
6
00:01:40,870 --> 00:01:42,870
[グランド・ブダペスト・ホテル]
7
00:01:55,210 --> 00:01:58,240
非常に良くある間違いだが
8
00:01:58,320 --> 00:02:02,520
人は作家の想像力は常に
働きっぱなしだと考えている
9
00:02:02,560 --> 00:02:06,200
何も無いところから、数限りない
10
00:02:06,240 --> 00:02:09,960
作り話や出来事を
考え出せる物だと
11
00:02:10,140 --> 00:02:12,720
実のところ真実は逆だ
12
00:02:12,760 --> 00:02:15,120
作家であることが知れ渡れば
13
00:02:15,190 --> 00:02:18,500
誰もが、人の話や出来事を
教えてくれるようになる
14
00:02:18,520 --> 00:02:20,820
あなたが物事に気付き
15
00:02:20,820 --> 00:02:23,440
耳を傾ける努力さえ
惜しまなければ
16
00:02:23,440 --> 00:02:26,110
物語の方から常に…
17
00:02:26,280 --> 00:02:28,940
止めろ。止めるんだ!
撃つんじゃない!
18
00:02:34,250 --> 00:02:38,670
…生涯あなたを訪れ続けるだろう
19
00:02:38,670 --> 00:02:42,120
物語は聞く耳を持つ者の下に
20
00:02:42,300 --> 00:02:44,000
集うものだ
21
00:02:44,170 --> 00:02:45,920
- ごめんなさい
- いいんだ
22
00:02:45,930 --> 00:02:49,340
この物語は
私が聞いたままの形で
23
00:02:49,350 --> 00:02:52,510
お話しよう
24
00:02:52,510 --> 00:02:55,010
その時の驚きと共に
25
00:03:02,480 --> 00:03:06,860
ずいぶんと昔のこと
軽い「文士風邪」…これは
26
00:03:06,860 --> 00:03:10,820
神経症の1種で当時
知識人の間で流行っていた
27
00:03:10,820 --> 00:03:13,080
その治療のために8月一杯を
28
00:03:13,080 --> 00:03:16,990
アルプス、スデツンバルツの
ネーブルズバッド温泉で過ごすことにし
29
00:03:17,210 --> 00:03:20,630
グランド・ブダペストに宿を取った
30
00:03:20,630 --> 00:03:25,670
精緻で豪華絢爛な
一時は名の知られた大ホテルだ
31
00:03:25,670 --> 00:03:28,500
ご存知の方もいらっしゃるだろう
32
00:03:29,890 --> 00:03:32,230
オフ・シーズンでもあったが
33
00:03:32,230 --> 00:03:34,220
あの頃、既に古ぼけていて
34
00:03:34,220 --> 00:03:36,400
侘しさと退廃への没落が
35
00:03:36,400 --> 00:03:39,730
始まっていたようだ
36
00:03:39,730 --> 00:03:42,400
宿泊客の数は少なく
37
00:03:42,420 --> 00:03:45,520
お互い、この大店に
辛うじて棲まう生き物として
38
00:03:45,540 --> 00:03:48,570
すぐに相手を
見分けられるようになった
39
00:03:48,570 --> 00:03:51,740
もっとも、すれ違う際に交わす
礼儀的な会釈を超えて
40
00:03:51,740 --> 00:03:54,700
友好を深めた者は
誰も居ないだろう
41
00:03:54,700 --> 00:03:55,870
パーム・コートでも
42
00:03:55,870 --> 00:03:57,910
アラブ風呂の中でも
43
00:03:57,910 --> 00:04:00,420
ケーブルカーの中でも
44
00:04:00,420 --> 00:04:03,460
我々は皆、もの静かで
45
00:04:03,460 --> 00:04:06,860
そして例外無く、孤独だった
46
00:04:10,240 --> 00:04:12,700
もしかして
この静寂から逃れるためか
47
00:04:12,780 --> 00:04:15,160
私はホテルの
コンシェルジュと
48
00:04:15,240 --> 00:04:17,800
気さくな会話を
交わすようになった
49
00:04:17,860 --> 00:04:20,640
西側には「ムッシュー・ジョー」として
知られている男で
50
00:04:20,640 --> 00:04:25,930
互いに、だらけた
気の良い者同士として交わった
51
00:04:25,940 --> 00:04:28,440
彼の賃金は高くは無かっただろう
52
00:04:28,440 --> 00:04:29,940
とにかく、ある晩
53
00:04:29,950 --> 00:04:32,700
いつものようにムッシュー・ジョーと
立ち話をしていると
54
00:04:32,700 --> 00:04:37,150
新しい宿泊客が目についた
55
00:04:37,330 --> 00:04:39,790
上品な身なりの、背の低い老人で
56
00:04:39,790 --> 00:04:42,910
鋭い、知的な顔つきをしており
57
00:04:42,920 --> 00:04:46,120
そして只ならぬ悲哀を漂わせていた
58
00:04:46,300 --> 00:04:49,760
我々同様、彼も1人であったのだが
59
00:04:49,760 --> 00:04:54,550
真に深く孤独であろうと思われたのは
彼が最初であったと言える
60
00:04:54,550 --> 00:04:57,470
我が病のしるし、そのものである
61
00:04:57,470 --> 00:04:59,520
あのご老人はどなたかな?
62
00:04:59,520 --> 00:05:01,180
私はムッシュー・ジョーに問うた
63
00:05:01,350 --> 00:05:04,020
驚いたことに、彼は面食らったようだった
64
00:05:04,020 --> 00:05:05,610
- 知らないんですか?
- 彼は返した
65
00:05:05,610 --> 00:05:07,570
見て分かりませんか?
66
00:05:07,570 --> 00:05:09,030
どこかで見たようではあった
67
00:05:09,030 --> 00:05:12,980
あれがムスタファさんですよ
今朝、いらっしゃったんです
68
00:05:13,820 --> 00:05:18,240
この名前は、博識な方々には
聞き覚えがあるだろう
69
00:05:20,450 --> 00:05:24,990
ゼロ・ムスタファ氏は一時は
ズブロフカで1番の金持ちだったし
70
00:05:25,010 --> 00:05:26,420
[移民が資産家に]
71
00:05:26,420 --> 00:05:30,080
今でもグランド・ブダペストの所有者である
72
00:05:31,440 --> 00:05:33,550
時々来ては1週間ぐらい
泊まるんです
73
00:05:33,550 --> 00:05:35,840
年に3回は来るかな
繁忙期には来ないけど
74
00:05:35,840 --> 00:05:38,300
ムッシュー・ジョーは
耳を貸せと仕草した
75
00:05:38,470 --> 00:05:39,680
これは秘密なんですけど
76
00:05:39,680 --> 00:05:41,840
ムスタファさんは
最上階の角にある
77
00:05:41,880 --> 00:05:44,060
風呂無しのシングル部屋で
寝泊まりするんです
78
00:05:44,060 --> 00:05:46,180
従業員エレベーターより
狭いのに
79
00:05:46,400 --> 00:05:47,850
ゼロ・ムスタファ氏が
80
00:05:47,860 --> 00:05:51,020
欧州大陸の著名な
お城や宮廷を買い求め
81
00:05:51,020 --> 00:05:53,730
そこに住んでいるのは
公知の事実である
82
00:05:53,780 --> 00:05:57,120
なのに、このほぼ空っぽの
自分のホテルでは
83
00:05:57,120 --> 00:06:00,070
従業員部屋で過ごすだと?
84
00:06:00,120 --> 00:06:03,280
その時、どうでも良い
別の芝居の幕が開いた
85
00:06:03,460 --> 00:06:04,750
まずい!
86
00:06:04,750 --> 00:06:07,830
ムッシュー・ジョーはそちらに
87
00:06:07,840 --> 00:06:10,040
係っきりになったが
88
00:06:11,590 --> 00:06:14,170
私はすぐに興味を失った
89
00:06:21,430 --> 00:06:22,600
しかし
90
00:06:22,600 --> 00:06:25,860
この突然打ち切られた
興味深い老人の話が
91
00:06:25,920 --> 00:06:27,940
私を、言うなれば
92
00:06:27,940 --> 00:06:30,220
「ゲシュパンタ・ヴィ・アン・フリッザボーガン」
93
00:06:30,440 --> 00:06:32,820
つまり、身を乗り出すような気分にさせた
94
00:06:32,820 --> 00:06:35,900
次の朝になってもまだ
そのことが頭を離れない
95
00:06:35,910 --> 00:06:39,870
ところが何とも不思議なことに
巡り合わせというものであろう
96
00:06:39,870 --> 00:06:43,990
運命が再び私を訪れた
97
00:06:47,710 --> 00:06:49,910
貴殿のお仕事を尊敬しております
98
00:06:52,840 --> 00:06:54,620
何でしょうか?
99
00:06:56,010 --> 00:07:00,300
あなたの素晴らしいお仕事を存じ上げておるし
尊敬している、と申し上げました
100
00:07:01,140 --> 00:07:03,100
これはどうも、お礼申し上げます
101
00:07:03,100 --> 00:07:07,080
ムッシュー・ジョーがこの建物の
持ち主の老いぼれに付いて
102
00:07:07,100 --> 00:07:09,390
何か申し上げませんでしたかな?
103
00:07:09,770 --> 00:07:14,110
いや、実は、私が
あなたの事をお尋ねしました
104
00:07:14,110 --> 00:07:16,950
奴は仕事はするが…
ムッシュー・ジョーの事だが
105
00:07:16,950 --> 00:07:18,910
でも奴が1流のコンシェルジュだとは
106
00:07:18,910 --> 00:07:21,700
あるいは2流だとすら申し上げられません
107
00:07:21,700 --> 00:07:23,110
でも、そういう物です
108
00:07:23,830 --> 00:07:25,860
時代は変わった
109
00:07:28,120 --> 00:07:32,000
この温水風呂はとても美しい
110
00:07:32,000 --> 00:07:35,590
当初は見事な物でした
でも整備し続けるのは難しい
111
00:07:35,590 --> 00:07:37,370
今の時流にはデカダント過ぎますな
112
00:07:37,550 --> 00:07:42,300
でも私にはこのままが良いのです
この、魔法の掛かった廃墟が
113
00:07:43,180 --> 00:07:45,970
どの様な経緯で買い取られたのか
伺っても?
114
00:07:45,980 --> 00:07:48,180
このグランド・ブダペストを?
115
00:07:57,780 --> 00:07:58,980
買ってはおらんのですよ
116
00:08:08,500 --> 00:08:10,370
ただの礼儀で
仰っているので無ければ
117
00:08:10,540 --> 00:08:13,250
そうならば
教えてくださらにゃならぬが
118
00:08:13,250 --> 00:08:16,460
もし、本当に
ご興味がお有りならば
119
00:08:16,630 --> 00:08:19,080
晩餐にご同席下さいませんか
120
00:08:19,130 --> 00:08:23,050
私の「物語」を聞いてくださるのならば
喜びと共に光栄だ
121
00:08:23,050 --> 00:08:26,800
そんな物があれば、だが
122
00:08:32,810 --> 00:08:34,900
オリーブとアヒルの照り焼き、2皿
123
00:08:34,900 --> 00:08:37,480
- ウサギ肉のサラダは?
- ええ
124
00:08:37,570 --> 00:08:40,350
ポイ=ジュベの52年
それとブリュットの小瓶を
125
00:08:41,530 --> 00:08:44,780
これでしばらく時間が稼げるでしょう
126
00:08:44,780 --> 00:08:47,240
- 早速始めてよろしいかな
- もちろんです
127
00:09:06,930 --> 00:09:12,510
さて、まず我らが共通の友人の
先輩の話から始めなければなりませんな
128
00:09:12,690 --> 00:09:16,060
敬愛する、グランド・ブダペストの
最初のコンシェルジュです
129
00:09:17,150 --> 00:09:19,440
この話は、もちろん彼から始まるのです…
130
00:09:19,538 --> 00:09:24,500
第1部
“ムッシュー・グスタフ”
131
00:09:41,630 --> 00:09:43,970
- テーブルを窓際へ
- はい、ムッシュー・グスタフ
132
00:09:43,970 --> 00:09:46,610
- トレーはテーブルの上に
- 分かりました、ムッシュー・グスタフ
133
00:09:46,720 --> 00:09:49,140
そこへ
ブラシ掛け、型直しは終えたの?
134
00:09:49,140 --> 00:09:51,060
- もちろんです、ムッシュー・グスタフ
- 帽子箱へ入れて
135
00:09:51,060 --> 00:09:53,350
- それはオバースドーフの品?
- そのはずです、ムッシュー・グスタフ
136
00:09:53,350 --> 00:09:55,270
- 2つめのトランクに。乗車券は誰が?
- 私です、ムッシュー・グスタフ
137
00:09:55,270 --> 00:09:57,470
お見せなさい
138
00:09:58,320 --> 00:10:00,810
揃っているわね
角で待っていて
139
00:10:08,780 --> 00:10:11,240
- 私、帰らない
- 何ですって?
140
00:10:11,250 --> 00:10:13,450
- 私は帰らないわ
- なぜです?
141
00:10:13,620 --> 00:10:15,570
- 怖いのよ
- 何が?
142
00:10:15,710 --> 00:10:18,000
これが私達が会える
最後になりそうで怖いの
143
00:10:18,000 --> 00:10:19,790
どうしてそんな事があり得ます?
144
00:10:19,800 --> 00:10:22,130
言葉じゃ表現できないけど
感じるの
145
00:10:22,130 --> 00:10:24,920
まったく、もしあなたが
帰りたく無いのだったら…
146
00:10:24,930 --> 00:10:28,140
- 一緒に来てちょうだい
- あの腐り果てたルッツまで?
147
00:10:28,140 --> 00:10:30,420
- お願い
- 手を貸して
148
00:10:32,220 --> 00:10:35,350
何も恐れる事無いわ
あなた旅する前は怖がってばかり
149
00:10:35,350 --> 00:10:38,350
いつもより少し怖がっているみたいだけど
150
00:10:38,360 --> 00:10:41,400
でもね、正直に言って…
まあ! あなたこの爪どうしたの?
151
00:10:41,400 --> 00:10:43,360
- 何ですって?
- この滅茶苦茶なマニキュア
152
00:10:43,360 --> 00:10:45,400
- 色が完全に間違っている
- お気に召さない?
153
00:10:45,400 --> 00:10:48,520
嫌いとか言うより
生理的に受け付けない
154
00:10:49,330 --> 00:10:52,950
- これを聞けば慰められるわよ
- え? 暗唱は止めて
155
00:10:52,950 --> 00:10:55,410
- 良いから耳を傾けて、黙って
- お願い、今は
156
00:10:55,830 --> 00:10:59,420
「かつて気高き灰色の樹木
松の巨木を探し求めし時」
157
00:10:59,420 --> 00:11:03,920
「とある墓石を見つけり 雨に打たれ
すり減り、この世の物とは思えず」
158
00:11:03,920 --> 00:11:05,920
「その銘文はとうに消え去り」
159
00:11:05,930 --> 00:11:08,460
「されどその悲しみの裂け目には…」
160
00:11:09,350 --> 00:11:11,130
私のためにロウソクを
灯してくださる?
161
00:11:12,220 --> 00:11:16,050
- マリアさまの聖具室に
- 直ちに自分で灯しますとも
162
00:11:16,440 --> 00:11:20,180
覚えておいて
私は常にあなたと共に居る
163
00:11:20,940 --> 00:11:23,930
- 愛してるわ
- 愛してる
164
00:11:23,980 --> 00:11:24,920
出発!
165
00:11:35,290 --> 00:11:38,460
19年もの間、あのような女性の
寵愛を受け続けるなんて
166
00:11:38,460 --> 00:11:40,160
なかなかの物だわよ
167
00:11:41,250 --> 00:11:44,210
- その通りです
- あの人、私にぞっこんだから、ねえ
168
00:11:44,210 --> 00:11:45,380
その通りです
169
00:11:45,380 --> 00:11:47,470
でも、あんな風なの見た事無かったわ
170
00:11:47,470 --> 00:11:48,670
そうですね
171
00:11:48,840 --> 00:11:51,250
ウンチする犬みたいに震えてた
172
00:11:52,390 --> 00:11:53,590
全くです
173
00:11:53,720 --> 00:11:56,220
ブルクナプラッツの
聖マリア教会に行って
174
00:11:56,230 --> 00:11:58,060
飾り無しのロウソク半分買って
175
00:11:58,060 --> 00:11:59,740
おつりを4クルーベック受け取って
176
00:11:59,810 --> 00:12:01,730
聖具室でロウソクを灯し
簡単にお祈りして
177
00:12:01,810 --> 00:12:04,070
その後メンデルに行って私に
コーテザン・オ・ショコラを買ってきて頂戴
178
00:12:04,070 --> 00:12:06,870
おつりが余ったら
足の悪い靴磨きの子にあげて
179
00:12:08,450 --> 00:12:10,650
- すぐに
- お待ち
180
00:12:12,830 --> 00:12:14,100
お前は誰?
181
00:12:14,160 --> 00:12:16,740
僕は、ゼロです
新しいロビー・ボーイです
182
00:12:16,750 --> 00:12:18,000
- ゼロとおっしゃる?
- はい、そうです
183
00:12:18,000 --> 00:12:20,500
聞いた事無いわね。気付かなかった
誰がお前を雇った?
184
00:12:20,500 --> 00:12:23,240
- モーシャさんです
- モーシャさん!
185
00:12:24,300 --> 00:12:25,500
ムッシュー・グスタフ
何でしょう?
186
00:12:25,500 --> 00:12:27,360
あなたが内緒でこの青年を
187
00:12:27,400 --> 00:12:29,710
ロビー・ボーイとして
雇ったって事なのかしら?
188
00:12:29,840 --> 00:12:33,500
そいつは、試用期間で
グスタフさんの承認待ちですよ、もちろん
189
00:12:34,660 --> 00:12:37,350
あら、そうかもね
ありがとう、モーシャさん
190
00:12:37,350 --> 00:12:40,010
どういたしまして
ムッシュー・グスタフ
191
00:12:40,270 --> 00:12:42,720
今から正式な面接をしましょう
192
00:12:42,860 --> 00:12:45,180
その前にローソクを
灯して来ましょうか?
193
00:12:45,190 --> 00:12:46,600
え? いらない
194
00:12:50,200 --> 00:12:51,360
経験は?
195
00:12:51,360 --> 00:12:53,650
ホテル・キンスキーの調理場で6ヶ月
196
00:12:53,870 --> 00:12:56,160
ホテル・バーリッツの清掃係を3ヶ月
197
00:12:56,160 --> 00:12:59,040
- その前は洗い場担当で…
- 経験、ゼロ
198
00:12:59,040 --> 00:13:01,210
- 改めて、ありがとう。ムッシュー・グスタフ
- アナトール、帽子を直して
199
00:13:01,210 --> 00:13:03,170
- お礼を言うのはこちらです、シュナイダー様
- 紐が壊れてるのに
200
00:13:03,170 --> 00:13:05,130
- この花は使えないわ
- 仰る通りです
201
00:13:05,130 --> 00:13:08,050
- 学歴は?
- 読み書きは勉強しました
202
00:13:08,050 --> 00:13:10,420
小学校から初めて
もう少しで…
203
00:13:10,420 --> 00:13:12,750
- 学歴、ゼロ
- とうとう爆発した
204
00:13:12,890 --> 00:13:15,050
シセロさん、おはようございます
いいから配管工をお呼び!
205
00:13:15,050 --> 00:13:17,430
- 午後でよろしくて、ムッシュー・グスタフ?
- 必ず参ります。リベリン婦人
206
00:13:17,430 --> 00:13:19,220
- これはどういう事だ?
- 後にして
207
00:13:19,220 --> 00:13:21,430
家族は?
208
00:13:23,560 --> 00:13:25,640
ゼロです
209
00:13:25,810 --> 00:13:28,020
イゴール、6階よ
210
00:13:35,160 --> 00:13:37,230
どうしてお前は
ロビー・ボーイに成りたいの?
211
00:13:39,040 --> 00:13:43,580
誰でも成りたいですよ
だってグランド・ブダペストですよ?
212
00:13:43,580 --> 00:13:45,780
最高のホテルです
213
00:13:48,460 --> 00:13:50,330
良く出来ました
214
00:14:00,860 --> 00:14:02,960
[M・グスタフへ]
215
00:14:05,350 --> 00:14:07,720
- 1千クルーベック
- すごい
216
00:14:08,940 --> 00:14:11,730
グスタフさんは
ロビー・ボーイだった事あります?
217
00:14:11,940 --> 00:14:13,110
どう思う?
218
00:14:13,110 --> 00:14:15,200
ええと、誰だって初めの仕事は…
219
00:14:15,200 --> 00:14:17,200
- 良いからロウソク灯してらっしゃい
- 分かりました
220
00:14:21,500 --> 00:14:24,320
[1ヶ月後]
このようにして、私の生活が始まった
221
00:14:26,960 --> 00:14:28,380
グランド・ブダペスト・ホテルでの
222
00:14:28,380 --> 00:14:30,090
ロビー・ボーイ見習い
223
00:14:30,090 --> 00:14:33,380
ムッシュー・グスタフの厳格な指導の下に
224
00:14:33,380 --> 00:14:36,630
私が生徒で、グスタフ氏が
指導教官かつ後見人だ
225
00:14:36,640 --> 00:14:38,590
ロビー・ボーイとは何か?
226
00:14:38,600 --> 00:14:42,300
ロビー・ボーイは全く目に付かず
かつ何時でも見つけられなければならない
227
00:14:42,310 --> 00:14:44,480
ロビー・ボーイはお客が
嫌う事を覚えている
228
00:14:44,480 --> 00:14:46,480
ロビー・ボーイはお客が必要とする事を
229
00:14:46,480 --> 00:14:48,760
それが言葉に成る前に
さとらなければならない
230
00:14:48,900 --> 00:14:52,150
ロビー・ボーイは、何よりもまず
お客の欠点を見て見ぬ振りをする
231
00:14:52,150 --> 00:14:54,280
お客の深い秘密を知る事になるけど
232
00:14:54,280 --> 00:14:55,990
中には不謹慎な物もあるけど
233
00:14:55,990 --> 00:14:57,860
それらは墓場まで持っていくの
234
00:14:58,030 --> 00:15:00,730
- だから口はつぐんでなさい、ゼロ
- 分かりました
235
00:15:00,920 --> 00:15:02,660
[ハインリヒ王子スイート]
236
00:15:02,660 --> 00:15:04,820
今日はここまで
237
00:15:05,000 --> 00:15:08,280
働くうちに、このホテルの
高貴で著名なお客の多くは
238
00:15:08,320 --> 00:15:10,870
グスタフ氏を訪ねてくるのだ
と気付いた
239
00:15:11,000 --> 00:15:14,120
それはグスタフ氏の仕事の
大部分を占めているようだったが
240
00:15:14,130 --> 00:15:16,540
彼はそれを楽しんでいるようだった
241
00:15:18,390 --> 00:15:20,510
ご婦人方の条件はいつも同じで
242
00:15:20,510 --> 00:15:23,260
裕福であり
243
00:15:23,270 --> 00:15:24,520
老齢で
244
00:15:24,520 --> 00:15:25,840
傷付きやすく
245
00:15:26,020 --> 00:15:27,190
わがままで
246
00:15:27,190 --> 00:15:28,560
気取り屋で
247
00:15:28,560 --> 00:15:29,850
ブロンドで
248
00:15:30,020 --> 00:15:31,640
欲求不満だった
249
00:15:32,570 --> 00:15:34,770
なぜにブロンド?
250
00:15:36,700 --> 00:15:38,310
だって、皆そうだったんです
251
00:15:38,360 --> 00:15:39,820
ところでグスタフ氏は
252
00:15:39,950 --> 00:15:43,580
私が知る中でもっとも大量の
香水を使う男だった
253
00:15:43,580 --> 00:15:46,660
遠くからでも香りが
グスタフ氏の到来を告げ
254
00:15:48,040 --> 00:15:50,830
去りし後も
ややしばらく香りが残った
255
00:15:52,540 --> 00:15:55,550
私の勤務は週に6日と
日曜が半日
256
00:15:55,550 --> 00:15:57,960
朝の5時から
深夜過ぎまで
257
00:15:58,860 --> 00:16:02,020
食事の量は少なかったが
スタミナのため回数が多かった
258
00:16:02,040 --> 00:16:04,760
朝食が2回、昼食が2回
そして遅めの夕食
259
00:16:05,680 --> 00:16:09,230
毎晩、ムッシュー・グスタフの
お説教があった
260
00:16:09,230 --> 00:16:12,080
乱暴さとは、単に
恐れの表現に過ぎません
261
00:16:12,120 --> 00:16:14,980
人は自分の欲しい物が手に
入らないのではないかと恐れます
262
00:16:15,030 --> 00:16:18,570
もっとも不愉快かつ魅力の無い人間でも
愛されさえすれば
263
00:16:18,570 --> 00:16:21,280
花のようにその心を開くのです
264
00:16:21,280 --> 00:16:22,940
1つの詩を思い出します
265
00:16:23,120 --> 00:16:25,620
「画家の筆の毛先が」
266
00:16:25,620 --> 00:16:27,750
「素早く描きかけの顔をなぞる」
267
00:16:27,750 --> 00:16:31,870
「その最初のひと刷毛が
色と共に女の頬に命を灯す」
268
00:16:32,040 --> 00:16:35,290
グスタフ氏は、自分の部屋で
1人で夕食を取った
269
00:16:40,630 --> 00:16:44,550
ホテルの所有者が誰なのか
従業員には知らされていなかった
270
00:16:44,560 --> 00:16:48,560
毎月、所有者の代理である
コバックス弁護人と言う男がやってきて
271
00:16:48,560 --> 00:16:50,600
帳簿を確認し
272
00:16:50,600 --> 00:16:53,350
謎の所有者からの伝言を伝える
273
00:16:53,360 --> 00:16:57,600
その日はムッシュー・グスタフは
ビジネス・マネージャーのベッカーさんと
274
00:16:57,640 --> 00:17:01,240
受付の上の部屋に籠るのだ
275
00:17:01,240 --> 00:17:02,840
[メンデル]
276
00:17:12,750 --> 00:17:15,540
私がアガサと会ったのもこの頃だ
277
00:17:33,480 --> 00:17:35,680
でも、この話はしない
278
00:17:42,666 --> 00:17:47,620
第2部
“マダムD”
279
00:17:47,671 --> 00:17:50,790
[新聞]
280
00:18:26,410 --> 00:18:27,650
- 何の用だ?
- 見て下さい
281
00:18:28,370 --> 00:18:30,460
[戦争か? 国境に戦車]
282
00:18:30,500 --> 00:18:32,500
[未亡の伯爵夫人 寝室で死亡]
283
00:18:32,500 --> 00:18:33,820
なんてこった
284
00:18:33,870 --> 00:18:35,370
お気持ち察します
285
00:18:35,370 --> 00:18:37,540
- 我々は赴かねばならぬ
- 我々ですか?
286
00:18:37,540 --> 00:18:41,370
直ぐさまに。あの人には私が必要なの
お前に荷物とかを手伝って欲しい
287
00:18:43,130 --> 00:18:44,880
- どれくらいで荷造りできる?
- 5分
288
00:18:44,880 --> 00:18:46,930
すぐ取りかかって
あとポイ=ジュベの26年も一緒に
289
00:18:46,930 --> 00:18:48,340
氷で冷やしてグラスは2つ
290
00:18:48,350 --> 00:18:51,510
食堂車の猫の小便を
飲まずに済むようにね
291
00:19:00,360 --> 00:19:02,640
私のせいね
292
00:19:03,280 --> 00:19:06,650
あの人は何かを予感していたのに
私は聞かなかった
293
00:19:06,660 --> 00:19:09,260
ルッツの街全体が
喪に服すでしょう
294
00:19:09,320 --> 00:19:12,790
あの人ですら憎んでいた
よこしまな子供たちを除いて
295
00:19:12,790 --> 00:19:15,410
あいつらはジプシーよろしく
踊りまくるでしょうよ
296
00:19:18,250 --> 00:19:20,380
人生で行う事って
本当に意味が無いわね
297
00:19:20,380 --> 00:19:22,380
生きるのは
ほんの一瞬だし
298
00:19:22,380 --> 00:19:25,510
気がつけばもう
冷たくなっている
299
00:19:25,510 --> 00:19:28,550
ああ、若くして死ぬべきだわ
300
00:19:28,550 --> 00:19:31,640
この古いおなじみにも何か
残しておいてくれれば良いけど
301
00:19:31,640 --> 00:19:35,090
でも死亡証明のインクが乾くまでは
どうなるか分からないよね
302
00:19:35,900 --> 00:19:38,900
あの人、ベッドじゃケダモノ
だったのよ、ところで
303
00:19:40,400 --> 00:19:42,820
マダムは84ですよ
ムッシュー・グスタフ
304
00:19:42,820 --> 00:19:44,530
私、もっと婆さんともしたわ
305
00:19:44,530 --> 00:19:46,400
若いときはね
最上のステーキが食べられるけど
306
00:19:46,400 --> 00:19:49,530
年が経つにつれて
お肉の質は落ちていく物よ
307
00:19:49,530 --> 00:19:51,950
私は好きだから良いけど
308
00:19:51,950 --> 00:19:54,570
より風味が増す、とも言うわね
309
00:19:57,670 --> 00:19:59,870
どうして野原の真ん中で停まるわけ?
310
00:20:07,060 --> 00:20:09,810
[10月19日]
[国境閉鎖]
311
00:20:14,850 --> 00:20:16,800
皆さん、ごきげんよう
312
00:20:16,850 --> 00:20:18,480
身分証明を
313
00:20:18,480 --> 00:20:20,680
喜んで
314
00:20:24,530 --> 00:20:26,610
お恥ずかしいけど
あまり良い写真じゃないのよね
315
00:20:26,610 --> 00:20:28,520
昔は美男子と呼ばれたものなのよ
316
00:20:29,570 --> 00:20:32,020
「F」ってなあに?
フリッツ? フランツでしょ?
317
00:20:32,030 --> 00:20:34,900
- フランツだ
- やっぱり!
318
00:20:36,000 --> 00:20:38,110
この人、笑いをかみ殺してる
319
00:20:38,290 --> 00:20:41,870
それは第3種労働許可の
非定住ビザだわよ、フランツさん
320
00:20:41,880 --> 00:20:44,160
彼は私と一緒
321
00:20:44,840 --> 00:20:46,080
列車から降りてください
322
00:20:47,460 --> 00:20:50,590
ちょっと待った。ゼロ、お座り
この証明書は問題ないはずよ
323
00:20:50,590 --> 00:20:53,040
私、自分で労働局に確認したんだから
324
00:20:53,100 --> 00:20:55,720
単純に移民野郎だからって
逮捕出来るわけ無いでしょ?
325
00:20:55,720 --> 00:20:58,050
何も悪い事してないもの!
326
00:21:03,560 --> 00:21:05,680
お止め、おバカさん!
327
00:21:05,730 --> 00:21:07,900
良いんです、ムッシュー・グスタフ
逆らわないで
328
00:21:07,900 --> 00:21:09,810
まあ! 痛い!
329
00:21:12,490 --> 00:21:15,490
この、汚い、穢れた
あばた面の、ファシストの豚めっ!
330
00:21:15,490 --> 00:21:17,950
私のロビー・ボーイから
手をお放しっ!
331
00:21:29,630 --> 00:21:31,050
何があった?
332
00:21:31,050 --> 00:21:32,380
こんなの許せない
333
00:21:32,380 --> 00:21:35,620
この青年はネーブルズバッドのグランド
ブダペスト・ホテルで私の下で働いている
334
00:21:36,930 --> 00:21:38,590
ムッシュー・グスタフ?
335
00:21:41,060 --> 00:21:43,260
私はヘンクルズと言います
336
00:21:44,520 --> 00:21:47,770
ウルフギャング・ヘンクルズ
バーガーズドーファ家の息子です
337
00:21:47,780 --> 00:21:49,730
覚えてらっしゃいますか?
338
00:21:50,530 --> 00:21:54,270
もちろんですとも、驚き
おチビのアルバートじゃない
339
00:21:54,410 --> 00:21:56,280
これはお恥ずかしい
解放しろ
340
00:21:56,950 --> 00:21:59,240
解放しろ
341
00:22:05,660 --> 00:22:07,330
あなたの同僚のビザは無効だ
342
00:22:07,500 --> 00:22:09,840
特別移動許可を申請する
必要がありますが
343
00:22:09,840 --> 00:22:13,290
現在、取得は難しいでしょう
344
00:22:13,430 --> 00:22:14,630
これを使って下さい
345
00:22:15,840 --> 00:22:18,930
代用証ですが今はこれしか
出来ません、申し訳ない
346
00:22:18,930 --> 00:22:21,260
あなたの素敵なお母様は
どうしてらっしゃるの?
347
00:22:21,430 --> 00:22:23,430
- 母は元気です、ありがとう
- 素晴らしい方よね
348
00:22:23,440 --> 00:22:25,890
- 私の愛を伝えて
- 伝えましょう
349
00:22:26,610 --> 00:22:30,680
お前の連れのお方は私が幼い頃
とても優しくしてくれた
350
00:22:31,530 --> 00:22:34,060
私と隊員が与えたご不快に
お詫び申し上げます
351
00:22:34,070 --> 00:22:36,270
申し訳ありません
352
00:22:52,550 --> 00:22:55,880
見た? 昔は人間性が知られたはずの
この残忍な屠殺小屋にも
353
00:22:55,880 --> 00:22:59,840
ほんの少しは文明のかけらが
残っているのね
354
00:22:59,850 --> 00:23:04,260
もちろん、これこそが私達の取るに足らない
ちっぽけなホテルで…
355
00:23:05,640 --> 00:23:07,850
いや、もう止めましょ
356
00:23:23,630 --> 00:23:25,360
[ルッツ城]
357
00:23:38,930 --> 00:23:41,960
クロチルド、あの人はどこ?
連れて行って
358
00:24:17,220 --> 00:24:19,420
とても奇麗よ、ダーリン
本当よ
359
00:24:19,590 --> 00:24:21,040
美しい死化粧だわ
360
00:24:21,050 --> 00:24:23,720
葬儀屋がどんなクリームを
持ってるか知らないけど
361
00:24:23,720 --> 00:24:25,140
私も使いたいくらい
362
00:24:25,140 --> 00:24:27,680
ここしばらく無かった
くらいに奇麗よ
363
00:24:27,690 --> 00:24:29,890
まるで息をしているみたい
364
00:24:35,230 --> 00:24:39,280
あら、結局、爪直したのね
完璧
365
00:24:39,280 --> 00:24:41,240
- クロチルド?
- (仏語)はい、ムッシュー・グスタフ?
366
00:24:41,240 --> 00:24:43,480
お冷やを1杯頂ける?
氷無しで
367
00:24:43,600 --> 00:24:44,940
(仏語)はい、ムッシュー・グスタフ
368
00:24:45,080 --> 00:24:48,200
(仏語)あの、ムッシュー・サージが
内密のお話があると
369
00:24:50,670 --> 00:24:52,450
しょうがないわね
370
00:24:52,630 --> 00:24:54,830
すぐに戻ってよ、ダーリン
371
00:24:55,840 --> 00:24:58,010
我々は従業員通路を辿り
372
00:24:58,010 --> 00:25:01,500
緑色のベーズ張りのドアの
執事部屋に通された
373
00:25:04,220 --> 00:25:06,510
しばらくして
台所の入り口が開き
374
00:25:06,600 --> 00:25:10,050
白服の小男が飛び込んできた
375
00:25:10,730 --> 00:25:13,180
あの時の男の表情は忘れられない
376
00:25:13,860 --> 00:25:16,060
いったい何が起きているわけ?
377
00:25:16,570 --> 00:25:20,350
私はこのような邸宅に
足を踏み入れた事が無かったので
378
00:25:21,700 --> 00:25:24,280
何が起きているのか
想像もつかなかったが
379
00:25:24,280 --> 00:25:27,440
それでも、だんだん分かってきた
380
00:25:27,620 --> 00:25:31,210
巨大な遺産の命運が
決まろうとする時には
381
00:25:31,210 --> 00:25:35,330
人の強欲は血流中の毒がごとく拡散し
382
00:25:38,260 --> 00:25:40,760
叔父、叔母、甥、姪、従兄弟
383
00:25:40,760 --> 00:25:43,460
どれほど疎遠な義理の親戚でも
384
00:25:43,640 --> 00:25:45,220
死んだ老女のあらゆる縁者が
385
00:25:45,220 --> 00:25:47,510
どこからとも無く現れ来るのだと
386
00:25:49,020 --> 00:25:53,310
集会が始まりさらに驚いた事には
なんと言う偶然であろう
387
00:25:53,310 --> 00:25:56,270
コバックス弁護人が現れた
388
00:25:56,270 --> 00:25:59,230
彼はもちろん有能な弁護士であったが
389
00:25:59,240 --> 00:26:03,140
彼は死んだ未亡人の
遺言執行人でもあったのだ
390
00:26:09,370 --> 00:26:12,570
これがマダムDの遺書及び遺言です
391
00:26:13,790 --> 00:26:15,920
46年前に逝去された
392
00:26:15,920 --> 00:26:20,040
ご主人の遺産執行状から始まり
393
00:26:20,050 --> 00:26:23,340
それに加えて現在までの
394
00:26:23,340 --> 00:26:26,260
635の修正条項、覚え書き、訂正
395
00:26:26,260 --> 00:26:29,550
依頼の信書が含まれます
396
00:26:31,730 --> 00:26:34,940
全体の最終的な法的結論を得るには
少々時間がかかりますが
397
00:26:34,940 --> 00:26:38,180
専門家として理解するに
マダムDの欲するところ
398
00:26:38,190 --> 00:26:40,900
遺産の大部分は
そのまま彼女の息子たる
399
00:26:40,920 --> 00:26:43,110
デミトリ氏に相続するものとし
400
00:26:43,110 --> 00:26:45,990
その姉妹であるマルガリート
レティツィア、カロリーナ各氏には
401
00:26:45,990 --> 00:26:48,530
年金が支給されます
402
00:26:48,700 --> 00:26:51,870
また多くの親族の方に
小額の贈与があります
403
00:26:51,870 --> 00:26:55,490
この受給者のリストは
遺産執行に従い明らかにします
404
00:26:57,750 --> 00:26:59,040
ところで
405
00:27:02,300 --> 00:27:03,840
もう1つの追加条項が
406
00:27:03,840 --> 00:27:07,260
今朝郵便で私の下に届けられました
407
00:27:07,260 --> 00:27:08,860
どうやらマダムDは
408
00:27:08,940 --> 00:27:11,080
彼女の人生の末期に
409
00:27:11,140 --> 00:27:14,130
遺言本書に修正を
加えようとした模様です
410
00:27:14,140 --> 00:27:18,270
法律に従い今から
これを読み上げますが
411
00:27:18,270 --> 00:27:20,140
この書状の真贋はまだ
412
00:27:20,180 --> 00:27:22,780
本執行官において
確認されておらず
413
00:27:22,780 --> 00:27:26,150
皆様におかれましては
どうか、ご忍耐の上
414
00:27:26,160 --> 00:27:29,610
確認がなされるまでは
一切の発言を控えられますよう
415
00:27:38,290 --> 00:27:41,880
「我が人生最後の日々の敬愛する友人」
416
00:27:41,880 --> 00:27:44,330
「もう2度と幸せなど無いと
諦めた老女の暮らしに」
417
00:27:44,340 --> 00:27:47,300
「陽光をもたらした君」
418
00:27:47,300 --> 00:27:49,420
「ムッシュー・グスタフ・Hへ」
419
00:27:51,010 --> 00:27:53,980
「ここに、租税完全免除かつ
受託者の完全な権利と共に」
420
00:27:53,980 --> 00:27:56,510
「以下の品を譲渡、授与、または遺贈する」
421
00:27:57,310 --> 00:27:59,190
「絵画1点 “林檎を手にする少年”」
422
00:27:59,190 --> 00:28:01,140
- おお!
- 「若ヨハネス・バン…」
423
00:28:01,150 --> 00:28:02,770
- 信じられん
- 「ホイトル作」
424
00:28:02,780 --> 00:28:05,190
- 何だと?
- 「2人で鑑賞した思い出と共に」
425
00:28:05,190 --> 00:28:06,240
あのバン・ホイトル?
426
00:28:06,240 --> 00:28:07,600
- 税抜きだって?
- そんな事出来るのか?
427
00:28:07,740 --> 00:28:09,940
グスタフ・Hって誰だ?
428
00:28:10,910 --> 00:28:12,650
恐れながら私の事ですわね、皆さん
429
00:28:14,910 --> 00:28:17,330
このオカマ野郎か!
430
00:28:17,330 --> 00:28:20,040
こいつはコンシェルジュだぞ
お前、何しに来た?
431
00:28:20,040 --> 00:28:23,210
愛した偉大な女性に
敬意を払うために来ました
432
00:28:23,210 --> 00:28:26,510
- この男は我が屋敷へ不法に侵入した
- まだ貴方のものでは無くてよ、デミトリ
433
00:28:26,510 --> 00:28:29,050
検認が終わって
譲渡資格の…
434
00:28:29,050 --> 00:28:31,610
お前なんかに「林檎を持った少年」は
渡さないぞ、この気違い!
435
00:28:33,060 --> 00:28:35,350
それ、どう反応しろって言うの?
436
00:28:35,350 --> 00:28:37,590
警察を呼べ
訴えてやる
437
00:28:37,770 --> 00:28:40,940
この罪人は20年近く
ウチにタカっているんだ
438
00:28:40,940 --> 00:28:42,980
こいつは恥知らずの
山師で詐欺師で
439
00:28:42,980 --> 00:28:45,230
心の弱った死にかけの
老女を獲物にして
440
00:28:45,230 --> 00:28:47,490
ついでにそいつらと
寝ているに違いない!
441
00:28:47,490 --> 00:28:49,980
私はどんな友人とでも一緒に寝ます
442
00:28:59,080 --> 00:29:01,370
セリーヌはどこだ?
443
00:29:01,380 --> 00:29:05,200
何? 死んだよ
セリーヌの遺書を読んでるところだ
444
00:29:05,210 --> 00:29:07,550
ああ、そうだったな
445
00:29:07,550 --> 00:29:10,630
お前が母の遺体に指1本でも触れたら
446
00:29:10,800 --> 00:29:14,250
たとえ死んだ後でも
お前の喉をかっ切ってやる!
447
00:29:14,260 --> 00:29:16,550
私はオカマ野郎なのかと思ったわ
448
00:29:17,430 --> 00:29:20,270
- そうだ。でも両刀使いだ
- 話題を変えましょう
449
00:29:20,270 --> 00:29:21,510
私は帰ります
450
00:29:27,870 --> 00:29:29,870
(仏語)ここで待っていてくれ
451
00:29:30,360 --> 00:29:33,730
「林檎を持った少年」の価値は
想像を絶するの、分かってる?
452
00:29:33,910 --> 00:29:35,490
おめでとうございます
ムッシュー・グスタフ
453
00:29:35,490 --> 00:29:37,450
あいつら、あの絵のために
私と争うつもりね
454
00:29:37,450 --> 00:29:40,040
- 奇麗な絵ですか?
- 言葉にならないぐらい
455
00:29:40,040 --> 00:29:42,540
「最も才能ある詩人の詩ですら」
456
00:29:42,540 --> 00:29:44,790
「あの人の去った後は…
– ああ、あの人はもう居ない!」
457
00:29:45,000 --> 00:29:47,460
- 「彼の声はただ…」
- 見られますか?
458
00:29:47,460 --> 00:29:49,670
それは良い考えだわね
459
00:30:21,160 --> 00:30:23,700
これはバン・ホイトルの
人物画の頂点よ
460
00:30:23,870 --> 00:30:26,210
大人になりかけの美しい少年
461
00:30:26,210 --> 00:30:29,090
ブロンド、滑らかな肌は
その牛乳のように白い
462
00:30:29,090 --> 00:30:30,540
来歴も確かだし
463
00:30:30,550 --> 00:30:34,330
晩年の作で
疑い無しの最傑作
464
00:30:34,340 --> 00:30:35,790
代表作だわ
465
00:30:35,930 --> 00:30:38,170
他の絵はどれもゴミだわね
466
00:31:24,730 --> 00:31:26,730
ムッシュー・グスタフ?
467
00:31:28,860 --> 00:31:30,640
(仏語)手を貸しましょうか?
468
00:31:31,910 --> 00:31:32,900
(仏語)ええ、サージ
469
00:31:32,900 --> 00:31:34,800
(仏語)これを包んでちょうだい
470
00:31:34,920 --> 00:31:36,040
(仏語)包む…
471
00:31:36,040 --> 00:31:38,040
- (仏語)「林檎を持った少年」を?
- ええ
472
00:31:48,710 --> 00:31:50,710
[親展]
473
00:31:57,050 --> 00:31:59,630
さっき何の話があったの
474
00:32:00,680 --> 00:32:02,880
今は話せない
475
00:32:03,060 --> 00:32:05,510
明日、お手紙ちょうだい
ルッツバーン駅!
476
00:32:17,280 --> 00:32:19,450
2度とこの絵、手放さないわ
477
00:32:19,450 --> 00:32:23,940
あの人を思い出すの
何時までもあの人のものだった私をね
478
00:32:24,160 --> 00:32:26,910
この絵を掛けたままベッドで死ぬわ
479
00:32:27,040 --> 00:32:29,240
似てるでしょ?
480
00:32:30,040 --> 00:32:32,240
あ、そうですね
481
00:32:37,340 --> 00:32:39,290
やっぱり、売っちゃいましょう
482
00:32:39,300 --> 00:32:42,470
なるたけ速く
あいつらに取り返される前に
483
00:32:42,470 --> 00:32:45,420
それに何やら歩兵大隊が
近づいてるって言うし…
484
00:32:45,430 --> 00:32:48,930
大きな戦争になったら
ホテル業界も閑古鳥
485
00:32:49,060 --> 00:32:51,680
分かってるのは明日にも
侵略されそうって事くらい
486
00:32:57,780 --> 00:32:59,940
血の盟約を結びましょう
487
00:33:00,110 --> 00:33:03,580
闇市場に当たって「林檎を持った少年」を
現金化するの。今週中に
488
00:33:03,580 --> 00:33:06,700
その後、国を逃れてマルタ
リビエラのどこかに潜伏するのよ
489
00:33:06,700 --> 00:33:09,490
災難がさってホテルが
再開できるまでの間
490
00:33:09,500 --> 00:33:11,450
お前の手助けと忠誠と
491
00:33:11,460 --> 00:33:13,450
従者としての働きの報酬として
492
00:33:13,460 --> 00:33:18,210
売価の1.5%を約束するわ
493
00:33:18,220 --> 00:33:20,420
- 1.5?
- 旅費と生活費は持つわよ
494
00:33:21,640 --> 00:33:24,340
- 10になりませんか?
- 10? お馬鹿おっしゃい
495
00:33:24,350 --> 00:33:26,220
仲買人にだってそれほど払わないわよ
496
00:33:26,220 --> 00:33:28,680
お前、明暗法と落書きの
区別も付かないくせに
497
00:33:28,680 --> 00:33:30,600
だから1.5が良くってよ
でも、その代わり
498
00:33:30,600 --> 00:33:33,930
もし私が先に死んだら、おそらくそうなる
でしょうけど、お前に全部残してあげる
499
00:33:34,110 --> 00:33:38,570
大したものは無いけどね。象牙製のヘアブラシと 恋愛詩編集の蔵書を除けば
500
00:33:38,570 --> 00:33:41,400
でもその時が来たら
全部お前のもの
501
00:33:41,410 --> 00:33:44,780
女と酒に使いきれなかった
残りも一緒にね
502
00:33:44,780 --> 00:33:47,660
私達の聖なる盟約よ
503
00:33:47,660 --> 00:33:49,860
今のうちに書いておきましょう
504
00:33:54,670 --> 00:33:58,910
私こと、ムッシュー・グスタフは
心身ともに健康であるこの日
505
00:33:59,090 --> 00:34:02,960
1932年10月19日にしたためる…
506
00:34:03,020 --> 00:34:05,860
グスタフ氏は出身地を明かさなかった
507
00:34:09,280 --> 00:34:12,160
私がグスタフ氏の家族について
聞く事も無かった
508
00:34:32,540 --> 00:34:34,740
すみません
509
00:34:35,290 --> 00:34:36,490
はい?
510
00:34:37,420 --> 00:34:40,910
警察が来てます
お会いしたいそうで
511
00:34:44,640 --> 00:34:46,840
すぐに行くと伝えなさい
512
00:34:47,470 --> 00:34:49,670
そうですか
513
00:34:54,690 --> 00:34:56,810
今まで尋問を受けた事ある?
514
00:34:56,810 --> 00:34:59,730
ええ、1度反乱軍に捕まって
拷問を受けました
515
00:34:59,730 --> 00:35:00,980
「砂漠の暴動」の時に
516
00:35:01,150 --> 00:35:03,230
- じゃあ分かるわね。しゃべっちゃ駄目よ
- もちろんです
517
00:35:03,320 --> 00:35:06,820
「バン・ホイテル」なんて名前は今まで
聞いた事無いのよ? さあ、行きましょ
518
00:35:21,630 --> 00:35:23,830
何か御用でしょうか、皆様方?
519
00:35:24,880 --> 00:35:26,340
おや、ヘンクルズ警部
520
00:35:26,340 --> 00:35:28,960
ズブロフカ警察長官の命により
521
00:35:29,220 --> 00:35:32,340
マダム・セリーヌ・ビレヌーブ
デゴーフ・アンド・タクシーズの殺害容疑で
522
00:35:32,340 --> 00:35:33,640
お前を逮捕する
523
00:35:33,640 --> 00:35:36,900
何かおかしいと思ったわ
死因を聞かされなかったもの
524
00:35:36,900 --> 00:35:40,430
あの人は殺されたのね
…私が殺したと思ってるのね
525
00:35:41,780 --> 00:35:43,980
おい!
526
00:35:45,650 --> 00:35:47,860
待て!
527
00:35:51,670 --> 00:35:56,630
第3部
“犯罪者収容所 第19砦”
528
00:36:02,681 --> 00:36:04,640
[第19砦]
529
00:36:19,570 --> 00:36:22,320
[1週間後]
[裁判待ち]
530
00:36:36,790 --> 00:36:39,000
何があったんです?
531
00:36:39,000 --> 00:36:40,720
何があったか?
ゼロったら
532
00:36:40,760 --> 00:36:44,630
私がピンキー・バンデンスキーとかいう
チンピラをボコボコにしてやったのよ
533
00:36:44,630 --> 00:36:46,590
私の男らしさを冗談にしたから
534
00:36:46,590 --> 00:36:48,970
だってペニー・ドレッドフル(英国3流雑誌)から
学んだ事は
535
00:36:48,970 --> 00:36:51,330
こういう状況に陥った時はね
536
00:36:51,350 --> 00:36:52,890
弱腰じゃ駄目なの
537
00:36:52,890 --> 00:36:54,970
最初の日に力を見せつけなきゃ
538
00:36:54,970 --> 00:36:56,760
尊敬を勝ち取るためにね
539
00:36:56,850 --> 00:37:00,140
今朝のピンキーの顔を見せてあげたいわ
540
00:37:03,440 --> 00:37:05,480
でもね、ピンキーとは
良いお友達になったの
541
00:37:05,480 --> 00:37:07,100
いつかお前にも会わせてあげる
542
00:37:07,860 --> 00:37:10,110
で、コバックスと話した?
543
00:37:10,320 --> 00:37:11,780
昨夜、内密に会いました
544
00:37:11,780 --> 00:37:14,260
聖書に手をかけて誓わせられましたよ
545
00:37:14,330 --> 00:37:16,740
- グスタフさんもなさるべきかと
- 後にするわ
546
00:37:16,750 --> 00:37:19,500
- コバックスさんは貴方の有罪を疑ってます
- もちろんでしょうよ
547
00:37:19,500 --> 00:37:21,530
で、罪状は?
548
00:37:22,670 --> 00:37:25,800
10月19日の真夜中過ぎ
549
00:37:25,800 --> 00:37:29,010
この家にムッシュー・グスタフ・H
として知られる人物が
550
00:37:29,010 --> 00:37:32,470
ルッツ市のデゴーフ・アンド
タクシーズ邸にやってきて
551
00:37:32,470 --> 00:37:35,010
裏口から侵入し
552
00:37:35,010 --> 00:37:36,670
誰にも気付かれないように
553
00:37:36,680 --> 00:37:40,640
隠し階段と従業員通路を通って
554
00:37:40,640 --> 00:37:43,060
マダムDの部屋を訪問した
555
00:37:43,060 --> 00:37:46,520
この来訪がマダムDとの
合意の下であったのか
556
00:37:46,520 --> 00:37:48,610
確証は何も無い
557
00:37:48,610 --> 00:37:53,700
翌朝、マダムDはストリキニーネ中毒で
死んでいるのが発見された
558
00:37:53,700 --> 00:37:55,950
その後ムッシュー・グスタフは
邸内で目撃されなかったが
559
00:37:55,950 --> 00:37:59,280
24時間後に再び来邸した
560
00:37:59,460 --> 00:38:04,200
原告の身元はこの
公証宣誓書に載っている
561
00:38:04,380 --> 00:38:07,880
つまり親戚一同だ
562
00:38:07,880 --> 00:38:12,800
だが、一連の出来事を
目撃したとされる証人が
563
00:38:12,800 --> 00:38:15,680
市警察管外へと
逃げてしまったらしい
564
00:38:15,680 --> 00:38:17,560
彼の居場所は現在不明だが
565
00:38:17,560 --> 00:38:20,260
関係機関が行方を追っている
566
00:38:20,430 --> 00:38:22,720
その証人は誰?
567
00:38:24,323 --> 00:38:26,490
[サージ・X]
568
00:38:26,610 --> 00:38:28,890
- サージが?
- そうなんです
569
00:38:28,900 --> 00:38:31,310
あのイカサマ氏め
570
00:38:31,450 --> 00:38:33,730
いや、そんなはずは無い
奴らに強制されたに違いない
571
00:38:33,740 --> 00:38:35,990
私はマムシの巣窟に
突き落とされたのよ
572
00:38:35,990 --> 00:38:37,190
アリバイは無いんですか?
573
00:38:37,370 --> 00:38:39,660
あるけど、彼女はウェストフィリアの
公爵と結婚してるの
574
00:38:39,660 --> 00:38:42,540
あの人の名前をこんな不誠実な事件で
持ち出す訳にいかないわ
575
00:38:42,540 --> 00:38:46,540
- ムッシュー・グスタフ、命が掛かっているんですよ
- そうだけど、あの女は逃げちゃったもの
576
00:38:46,540 --> 00:38:50,330
既にクイーン・ナスタシア号に乗って
蘭領タンガニーカに向かっているわ
577
00:38:52,760 --> 00:38:54,170
諦めないで下さい
578
00:38:59,810 --> 00:39:01,630
この陰謀の全容は
579
00:39:02,730 --> 00:39:04,980
今では公の事実だが
580
00:39:04,980 --> 00:39:08,270
当時の我々には知りようも無かった
581
00:39:24,960 --> 00:39:27,170
[ジョプリン 私立探偵]
サージ・Xを探している
582
00:39:27,170 --> 00:39:31,500
私の依頼主
デゴーフ・アンド・タクシーズ家の
583
00:39:31,540 --> 00:39:34,040
執事をしている男だ
584
00:39:35,510 --> 00:39:37,170
- はい?
- 妹さんかね?
585
00:39:37,800 --> 00:39:39,840
- ええ
- 最近お兄さんを見たかな?
586
00:39:40,810 --> 00:39:43,090
- いいえ
- 見てない?
587
00:39:43,980 --> 00:39:45,180
見てまいせん
588
00:39:48,480 --> 00:39:51,310
お兄さんの安全のため
今すぐ探さなければ
589
00:39:51,480 --> 00:39:53,100
皆が心配している
590
00:39:53,110 --> 00:39:55,990
もし此処に現れたなら…
591
00:39:55,990 --> 00:39:58,980
- はい?
- ジョプリンからと伝えてくれ
592
00:39:58,990 --> 00:40:01,400
「早く帰れ」と
593
00:40:03,500 --> 00:40:06,160
1つだけ確かな事は
594
00:40:08,000 --> 00:40:11,870
デゴーフ・アンド・タクシーズ家には
大きな力があって
595
00:40:15,800 --> 00:40:18,170
運は我々に向いては無かった
596
00:40:25,980 --> 00:40:29,010
ムッシュー・グスタフからの手紙だ
ゼロ
597
00:40:29,730 --> 00:40:31,930
- 私が?
- 読んでくれ
598
00:40:37,610 --> 00:40:39,740
「敬愛する、そして信頼する同僚へ」
599
00:40:39,740 --> 00:40:41,950
不合理な投獄による悲しむべき監禁の身には
600
00:40:41,950 --> 00:40:45,120
この様な手紙で皆様を偲ぶしかありません
601
00:40:45,120 --> 00:40:47,410
私が再び自由の身になるまでは
602
00:40:47,540 --> 00:40:50,030
グランド・ブダペストは
その傷1つない名声と共に
603
00:40:50,040 --> 00:40:52,370
皆さんの肩にかかっています
604
00:40:52,540 --> 00:40:54,710
ホコリ1つないほど磨き上げてください
605
00:40:54,710 --> 00:40:57,130
角の角までより厳重に面倒を見てください
606
00:40:57,130 --> 00:40:59,420
常に私が鞭を片手に
607
00:40:59,550 --> 00:41:03,100
鷹の目を持って監視していると思うように
608
00:41:03,100 --> 00:41:06,340
私が不在中に如何様なる
堕落でも発見されたなら
609
00:41:06,520 --> 00:41:10,190
即時かつ容赦ない鉄槌が下されるでしょう
610
00:41:10,190 --> 00:41:14,350
偉大かつ壮麗な楼閣の運命は
今、皆さんの手中にある
611
00:41:14,530 --> 00:41:17,190
不審な事があればゼロに報告するように
612
00:41:17,190 --> 00:41:19,480
「我が身を捧ぐ
ムッシュー・グスタフ」
613
00:41:19,660 --> 00:41:22,030
この後に詩が続くんですが
46節もありますから
614
00:41:22,030 --> 00:41:24,700
スープを分け始めた方が良いかと
615
00:41:24,700 --> 00:41:28,490
「黒き灰に降りた霜が
糞だらけのネズミの巣を湿らせ」
616
00:41:28,660 --> 00:41:30,920
「朽ちた木の臭気と交あう」
617
00:41:30,920 --> 00:41:32,920
「町でヤクザ者がさえずる間…」
618
00:41:32,920 --> 00:41:35,300
前からあの執事は信じてなかった
619
00:41:35,300 --> 00:41:39,170
- 正直すぎる
- 正直すぎるかね?
620
00:41:39,170 --> 00:41:43,840
そうかい。それはそうと
早くヤツを見つけて、さっさと済ませろ
621
00:41:59,860 --> 00:42:02,520
コーン粥がお要りの同囚は
いらっしゃるかな?
622
00:42:04,950 --> 00:42:06,490
要らない? 誰も?
623
00:42:06,660 --> 00:42:09,070
顔に大きな傷のそちらさんは?
624
00:42:18,170 --> 00:42:21,220
お試しなさい。今朝のは暖かいし
栄養あるわよ
625
00:42:21,220 --> 00:42:22,460
塩をひと振りすると良いのよね
626
00:42:31,190 --> 00:42:33,010
ご機嫌よう
627
00:42:37,690 --> 00:42:39,890
コーン粥。皆さん?
誰か食べない?
628
00:42:43,780 --> 00:42:45,400
お好きにどうぞ
629
00:42:50,870 --> 00:42:52,610
朝よ、起きて
さあさあ
630
00:42:54,040 --> 00:42:55,410
ピンキー、おはようさん
631
00:43:01,050 --> 00:43:03,880
- メンデルだな?
- その通り
632
00:43:03,880 --> 00:43:06,090
カミソリは誰が?
633
00:43:11,390 --> 00:43:14,510
- この世の物とは思えん
- メンデルは最高よ
634
00:43:14,690 --> 00:43:16,970
- 仕事に戻らなきゃ
- ムッシュー・グスタフ?
635
00:43:20,230 --> 00:43:21,980
はい?
636
00:43:25,410 --> 00:43:28,030
コイツらと話したんだが
637
00:43:28,030 --> 00:43:30,610
お前さんは真っ直ぐな人間のようだ
638
00:43:30,740 --> 00:43:33,070
それで訴えられた事は無いけどね
639
00:43:33,080 --> 00:43:35,210
お言葉は感謝します
640
00:43:35,210 --> 00:43:36,910
お前さんはもう同士だ
641
00:43:37,920 --> 00:43:40,080
なんて素敵な事を言ってくれるの
642
00:43:40,090 --> 00:43:42,130
ありがとう、愛しいピンキー
ありがとう、ガンター
643
00:43:42,130 --> 00:43:43,840
ありがとう、ウルフ
644
00:43:43,840 --> 00:43:46,040
他に何か?
645
00:43:47,720 --> 00:43:48,960
説明しろよ、ルドウィグ
646
00:43:50,720 --> 00:43:54,100
第19砦は
そこらのブタ箱とは違う
647
00:43:54,100 --> 00:43:57,510
全ての扉、窓、通気口にはズ太い鉄格子
648
00:43:57,690 --> 00:44:01,320
構内の見張りは72人
さらに監視塔に16人
649
00:44:01,320 --> 00:44:05,940
100メートル幅の堀には
ワニがウジャウジャ
650
00:44:05,950 --> 00:44:08,070
でも、どんな物にだって弱点がある
651
00:44:08,070 --> 00:44:10,030
ここの場合には豪雨対策の
652
00:44:10,030 --> 00:44:12,290
下水管がそうだ
653
00:44:12,290 --> 00:44:14,910
この砦が石を積み上げて
654
00:44:14,910 --> 00:44:17,120
中世に築かれた頃の物さ
655
00:44:17,120 --> 00:44:19,460
生憎、ご夫人とプードルつれて
656
00:44:19,480 --> 00:44:22,300
並木道をお散歩って具合にゃいかねえが
657
00:44:22,300 --> 00:44:26,170
でも、こんな所にも
「向こうずね」ってモンがあるんだ
658
00:44:26,180 --> 00:44:29,130
これが俺らの生業でねえ
659
00:44:29,800 --> 00:44:32,130
見てくれ
660
00:44:33,100 --> 00:44:34,550
これ誰が描いたの?
661
00:44:34,730 --> 00:44:36,980
「誰が描いた」って何だよ
俺が描いた
662
00:44:36,980 --> 00:44:39,190
すごいじゃない
線描が奇麗ね、ルドウィグ
663
00:44:39,190 --> 00:44:41,110
絵画の才能があるわよ
664
00:44:41,110 --> 00:44:44,600
質問。この基礎部分は
どうやって突破するの?
665
00:44:44,780 --> 00:44:47,360
これ60センチ厚の花崗岩よねえ?
666
00:44:47,360 --> 00:44:49,310
カミソリで削っていったら
667
00:44:49,320 --> 00:44:52,160
3〜6ヶ月かかるんじゃないかしら
668
00:44:52,160 --> 00:44:53,940
そんなに待っていたら
669
00:44:53,950 --> 00:44:55,450
この中の何人かは吊るされちゃうわよ
670
00:44:55,450 --> 00:44:58,080
正鵠を射るねえ
グスタフさんよ
671
00:44:58,080 --> 00:45:00,920
身分証明やら、町歩きの普段着やら
672
00:45:00,920 --> 00:45:03,380
敷布と棒っ切れで
ハシゴもロープも作ったが
673
00:45:03,380 --> 00:45:05,460
掘る道具が無いんだ
674
00:45:05,460 --> 00:45:08,630
入り荷の検査が厳しすぎてね
675
00:45:22,940 --> 00:45:24,960
物語のこの段になって
676
00:45:24,960 --> 00:45:28,360
老人は黙り込み
羊の皿を遠ざけた
677
00:45:28,360 --> 00:45:31,410
彼の双眸は石ころのように
無表情になった
678
00:45:31,410 --> 00:45:33,610
苦しいのだろうかと思ったので
679
00:45:33,780 --> 00:45:36,370
- ムスタファさん、ご気分でも悪いのですか?
- とうとう尋ねた
680
00:45:36,370 --> 00:45:38,990
- 私が? いや、違う
- 老人は答えた
681
00:45:39,000 --> 00:45:41,530
ただ、どうお話して良いか
分からんのです
682
00:45:42,500 --> 00:45:45,000
彼は泣いていたのだ
683
00:45:45,000 --> 00:45:47,140
私はアガサの事をしゃべった事は無い
684
00:45:47,160 --> 00:45:50,380
なぜなら、その名前を想っただけで
685
00:45:50,380 --> 00:45:53,380
自分の感情を抑え切れんのだ
686
00:45:56,270 --> 00:45:58,680
だが、どうやら逃げ道は無さそうですな
687
00:45:59,890 --> 00:46:02,350
アガサが我々を救ってくれたのです
688
00:46:02,400 --> 00:46:04,440
3回めのランデブーで
689
00:46:04,440 --> 00:46:07,430
[1ヶ月前]
結婚を申し込み、アガサは同意した
690
00:46:07,440 --> 00:46:09,650
- 結婚してくれる?
- ええ
691
00:46:11,280 --> 00:46:14,370
2人の財産は合わせて
50クルーベックにもならなかったが
692
00:46:14,370 --> 00:46:17,780
誰がそんな事を気にするものか?
693
00:46:17,910 --> 00:46:20,700
私達はこの世に2人きりで幸せだったし
694
00:46:21,830 --> 00:46:24,030
そして互いを深く愛していた
695
00:46:32,470 --> 00:46:34,510
- あげる
- ありがとう
696
00:46:34,510 --> 00:46:36,550
- 本だ
- ええ
697
00:46:36,560 --> 00:46:38,310
「恋愛詩編 第1集」
698
00:46:38,310 --> 00:46:40,930
ムッシュー・グスタフのおすすめで
僕も同じのを持ってる
699
00:46:40,940 --> 00:46:45,180
- 楽しみを奪っちゃったみたい
- どうせ開けるから
700
00:46:48,360 --> 00:46:50,560
裏表紙の書込みを読んで
701
00:46:51,340 --> 00:46:55,060
最も親愛なる、最愛の、大切な
宝物であり崇拝するアガサへ
702
00:46:55,060 --> 00:46:59,000
尊敬と、熱愛と、賞賛と
キスと、感謝と、祝福と
703
00:46:59,000 --> 00:47:02,400
そして愛と共に贈る
ZからAへ
704
00:47:08,960 --> 00:47:10,210
ムッシュー・グスタフは即座に
705
00:47:10,210 --> 00:47:12,590
詳しい人物調査を要求した
706
00:47:12,590 --> 00:47:15,470
魅力的じゃないの
とても魅力的なお嬢さん
707
00:47:15,470 --> 00:47:18,180
グスタフ氏はアガサに
磁器のペンダントと
708
00:47:18,180 --> 00:47:20,700
子供の棺桶ほどの箱に入った
709
00:47:20,720 --> 00:47:23,560
薄紙包みの白チューリップ
5ダースを贈呈した
710
00:47:23,560 --> 00:47:26,480
- 間違ってる
- 何ですって?
711
00:47:26,480 --> 00:47:27,810
なんでゼロはムクれてるの?
712
00:47:27,840 --> 00:47:30,500
アガサは僕の彼女だ
あなたはプレゼントなんか出来ない
713
00:47:30,520 --> 00:47:33,490
お前の代わりに娘さんを
面接してるだけじゃないか
714
00:47:33,490 --> 00:47:36,320
人生では嫉妬しちゃ駄目よ、ゼロ
ほんの一瞬であっても
715
00:47:36,320 --> 00:47:38,150
グスタフ氏は君に言い寄ってる?
716
00:47:39,200 --> 00:47:42,490
- ええ
- 結婚を認めます
717
00:47:42,500 --> 00:47:45,250
美しきアガサ
良き人のもとにお戻り
718
00:47:45,250 --> 00:47:46,670
すぐに分かった事だが
719
00:47:46,670 --> 00:47:48,590
2人の未来に祝福を
720
00:47:48,590 --> 00:47:50,540
アガサは単にパレット・ナイフ使いや
721
00:47:50,550 --> 00:47:53,300
バター・クリーム飾りに
秀でているだけではなく
722
00:47:53,300 --> 00:47:55,500
- メンデルさんだ
- 隠して
723
00:47:56,430 --> 00:47:58,630
とても勇敢であった
724
00:48:03,020 --> 00:48:05,300
生まれつきであったのだろう
725
00:48:24,410 --> 00:48:26,580
何かが足りない
726
00:48:26,580 --> 00:48:31,340
重要な書類が。無くしたのか
あるいは、ひょっとして破棄されたか
727
00:48:31,340 --> 00:48:34,020
どんな書類か、何が書かれて
いたか分からない
728
00:48:34,090 --> 00:48:35,580
何かは分からないが
729
00:48:35,590 --> 00:48:38,880
でもその痕跡は至る所にある
730
00:48:39,010 --> 00:48:41,380
怖がらせるつもりは無いが
731
00:48:41,400 --> 00:48:45,880
貴殿の相続に関する執行官の態度が
大きく変わるとも思わないが
732
00:48:46,060 --> 00:48:49,890
死亡原因を考慮するに
733
00:48:50,060 --> 00:48:54,610
それに殺人の目撃者である
サージ・Xの失踪を考えると
734
00:48:54,610 --> 00:48:58,860
この件は速やかに警察に
報告した方が良いでしょう
735
00:48:59,030 --> 00:49:00,910
そうすれば将来
736
00:49:00,990 --> 00:49:03,450
禍根を残す事も無い
737
00:49:03,450 --> 00:49:05,450
- 同意するかね?
- 不同意だ
738
00:49:07,120 --> 00:49:09,410
- 不同意と?
- 不同意だ
739
00:49:11,790 --> 00:49:15,340
- ビルモス、聞いて良いかな?
- 何かな、デミトリ?
740
00:49:15,340 --> 00:49:18,260
- お前は誰のために働いている?
- 何ですと?
741
00:49:18,260 --> 00:49:22,220
誰のために働いているんだ?
俺たちの弁護士じゃなかったのか?
742
00:49:22,220 --> 00:49:25,680
いや、事実を述べれば
私は遺産の執行人であるので
743
00:49:25,680 --> 00:49:29,970
この件に関して言えば
私は故人の代理人だ
744
00:49:30,150 --> 00:49:31,270
へえ?
745
00:49:31,270 --> 00:49:34,230
ああ。私の報酬は遺言に含ま…
746
00:49:34,230 --> 00:49:39,270
速いとこ済ませて波風立てるのは
止そうや。同意するか?
747
00:49:41,070 --> 00:49:45,320
私は弁護士だ
法律に従って行動する義務がある
748
00:49:46,410 --> 00:49:47,700
同意できない
749
00:49:54,170 --> 00:49:56,410
こりゃダメだぜ
姉さんがた
750
00:49:59,590 --> 00:50:01,840
今、私の猫を窓から放り投げた?
751
00:50:03,050 --> 00:50:04,760
違うんじゃ
752
00:50:04,760 --> 00:50:05,960
- したかしら?
- ジョプリンが?
753
00:50:32,750 --> 00:50:34,950
よし
754
00:50:45,390 --> 00:50:48,160
まだ話していない事があるんだ
アガサ
755
00:50:48,200 --> 00:50:49,840
- そう
- 絵を1枚盗んだ
756
00:50:49,860 --> 00:50:52,520
とても高価な絵で
5百万クルーベックするかも
757
00:50:52,520 --> 00:50:54,560
まだ気付かれたかどうか
分からないけど
758
00:50:54,560 --> 00:50:56,400
もし僕とグスタフさんの身に
何かあったら…
759
00:50:56,400 --> 00:50:58,020
あなた絵画泥棒なの?
760
00:50:58,900 --> 00:51:02,280
1枚だけだよ。とにかくアガサの
安全を考えないと
761
00:51:02,280 --> 00:51:05,280
これを隠して。読むには
虫眼鏡が要るかもしれないけど
762
00:51:05,280 --> 00:51:07,660
何処にどうやって「林檎を持った少年」を
隠したかが書いてある
763
00:51:07,660 --> 00:51:09,870
市場実勢価格の半分以下では
売らないように。それと…
764
00:51:09,870 --> 00:51:12,790
- ゼロ。私はパン屋よ
- 菓子職人だろ?
765
00:51:12,790 --> 00:51:14,870
闇業者じゃないの
これが言葉かどうか知らないけど
766
00:51:14,880 --> 00:51:16,990
盗品の売買なんかしないの
767
00:51:18,170 --> 00:51:20,370
説明を間違えた
マダムが遺してくれたんだ
768
00:51:29,350 --> 00:51:31,550
早く寝ろ
769
00:51:31,890 --> 00:51:33,970
はい
メンデルさん
770
00:51:36,560 --> 00:51:38,520
- これを頼む
- いや
771
00:51:38,520 --> 00:51:40,730
分かった
とにかく持ってて
772
00:52:10,231 --> 00:52:12,190
[コート預かり券]
[内訳:ペルシャ猫(死亡)]
773
00:52:53,817 --> 00:52:55,770
[次 クンスト美術館]
774
00:53:16,339 --> 00:53:18,842
[後15分で閉館]
775
00:53:31,187 --> 00:53:33,690
[後14分で閉館]
776
00:54:02,630 --> 00:54:03,840
[立入禁止]
777
00:54:21,190 --> 00:54:23,190
[出口]
778
00:55:06,570 --> 00:55:10,280
次の朝、ベッカーさんは
コバックス弁護人の事務所より
779
00:55:10,360 --> 00:55:15,000
間近に迫った次回会合を延期するとの
異例な手紙を受け取った
780
00:55:16,040 --> 00:55:18,180
無期限に延期すると
781
00:55:18,294 --> 00:55:21,297
[第19砦 搬入口]
782
00:55:21,670 --> 00:55:25,670
[3日後]
783
00:55:47,440 --> 00:55:49,140
ずらかるぞ
784
00:56:12,970 --> 00:56:14,560
[調理場]
785
00:56:59,140 --> 00:57:02,010
- どうやって抜け出した?
- うるさい、黙れ
786
00:57:02,010 --> 00:57:04,890
コイツら脱走するつもりだ
787
00:57:04,890 --> 00:57:06,810
何だお前?
チクる気か?
788
00:57:06,810 --> 00:57:09,010
衛兵! 衛兵!
789
00:57:16,070 --> 00:57:19,860
お前さんか、ありがとう
優しき、親切な方よ
790
00:57:25,920 --> 00:57:27,920
[守衛仮寝室]
791
00:57:49,520 --> 00:57:51,720
よし
792
00:58:22,720 --> 00:58:24,720
[スチーム通気口]
793
00:59:05,390 --> 00:59:08,300
これは引き分けでしょうね
794
00:59:17,190 --> 00:59:19,390
こんばんは
795
00:59:27,410 --> 00:59:31,290
紹介するわ。ピンキー、ウルフ、ルドウィグ
神の使いのゼロよ
796
00:59:31,290 --> 00:59:33,330
ガンターはカタコンベで殺された
797
00:59:33,330 --> 00:59:36,330
皆さん、もう会えるかどうか
分からないけど、もし…
798
00:59:36,340 --> 00:59:37,580
待った
799
00:59:40,380 --> 00:59:43,080
おしゃべりしてる暇はねえ
800
00:59:43,090 --> 00:59:45,590
気をつけてな、グスタフさん
801
00:59:45,720 --> 00:59:47,920
上手くやれよ
802
00:59:51,230 --> 00:59:54,390
- 隠れ家はどこ?
- 見つけられなかったんです
803
00:59:54,400 --> 00:59:57,640
隠れ家無し? 本当?
身1つでなんとかしなきゃいけないの?
804
00:59:57,770 --> 01:00:01,100
ご免なさい
あちこち頼んだんですけど…
805
01:00:01,110 --> 01:00:04,100
分かるわ。危険だものね
とにかく逃げなきゃ
806
01:00:04,110 --> 01:00:06,610
変装しましょう
807
01:00:06,740 --> 01:00:09,030
- 変装してるでしょ?
- してないわよ
808
01:00:09,030 --> 01:00:11,610
付け髭とか付け鼻とか言ったじゃない
809
01:00:11,750 --> 01:00:15,340
- 持ってこなかったの?
- 髭は生やしてるものかと…
810
01:00:15,440 --> 01:00:17,420
それに見破られちゃうでしょ?
811
01:00:17,420 --> 01:00:19,920
きちんと作れば区別付かないのよ
812
01:00:19,920 --> 01:00:22,050
でも言いたい事は分かった
813
01:00:22,050 --> 01:00:24,630
じゃあ、レア・ド・パナーシュを
吹きかけてくれる?
814
01:00:26,180 --> 01:00:29,630
- 香水すら無いの?
- レア・ド・パナーシュを忘れました
815
01:00:29,810 --> 01:00:32,430
全く、レア・ド・パナーシュを
忘れたですって?
816
01:00:32,430 --> 01:00:35,590
信じられない
酷いわね
817
01:00:35,770 --> 01:00:38,900
私は牢屋に居たのよ、ゼロ!
これがどれほど恥ずかしいか分かる?
818
01:00:38,900 --> 01:00:41,100
私は臭うのよ
819
01:00:42,900 --> 01:00:45,020
まったく素晴らしいじゃないのさ
820
01:00:45,030 --> 01:00:48,950
あなたの生まれた場所じゃ、これが…
どこだったっけ?
821
01:00:48,950 --> 01:00:50,570
- アク・サリム・アルジャバット
- その通り
822
01:00:50,740 --> 01:00:53,330
アク・サリム・アルジャバットでは
これが普通なんでしょうけど
823
01:00:53,330 --> 01:00:54,910
財産と言えば
824
01:00:54,910 --> 01:00:56,960
汚いカーペットとか
痩せっぽちのヤギで
825
01:00:56,960 --> 01:01:00,960
お家はテントだし、虫にまみれの前時代な
生活をしてるんでしょうけど
826
01:01:00,960 --> 01:01:03,580
でもお前をこんな風に
訓練した覚えは無いわ
827
01:01:03,660 --> 01:01:06,600
一体なんでお前に
ふさわしい故郷を離れて
828
01:01:06,600 --> 01:01:09,720
遠く離れた、文化の進んだ
この国へやってきて
829
01:01:09,800 --> 01:01:12,170
1文無しの移民なんかに
なったのさ?
830
01:01:12,180 --> 01:01:15,380
お前さんなんか居なくたって
何の不足も無いのに!
831
01:01:16,100 --> 01:01:17,300
戦争です
832
01:01:18,230 --> 01:01:19,680
何ですって?
833
01:01:19,810 --> 01:01:22,060
私の父は殺されて
834
01:01:22,070 --> 01:01:24,730
残りの家族は
特殊部隊に処刑されました
835
01:01:24,820 --> 01:01:26,840
住んでた村は丸焼けで
836
01:01:26,840 --> 01:01:29,950
生き残った者は
逃げざるを得なかったんです
837
01:01:29,950 --> 01:01:32,030
戦争のせいで国を離れました
838
01:01:32,790 --> 01:01:36,570
あらそう。つまり、お前は
どちらかというと難民に近いわけね?
839
01:01:37,500 --> 01:01:38,700
僕は難民です
840
01:01:38,830 --> 01:01:42,620
あら、じゃあ私、さっきの
言葉は取り消さなくちゃ
841
01:01:43,800 --> 01:01:47,080
私はとんでもない馬鹿者だわ
惨めな痴れ者
842
01:01:47,090 --> 01:01:49,340
卑劣で傲岸な恩知らず
843
01:01:49,340 --> 01:01:52,590
不名誉だわ。グランド・ブダペストの
本分にもとります
844
01:01:54,140 --> 01:01:56,350
ホテルを代表して謝罪します
845
01:01:56,350 --> 01:01:58,980
僕が香水を忘れたんです
怒って当たり前です
846
01:01:58,980 --> 01:02:03,150
私の言い訳なんかしないで
命の恩人なのに
847
01:02:03,150 --> 01:02:07,230
あなたは良き友人で、後輩で
とても良く出来た人物だわ
848
01:02:07,240 --> 01:02:09,650
それを分かってくれなくちゃ
849
01:02:09,820 --> 01:02:12,020
ごめんなさいね、ゼロ
850
01:02:13,280 --> 01:02:15,490
僕たちは兄弟ですね
851
01:02:23,420 --> 01:02:25,620
我らがアガサはどうしてる?
852
01:02:28,010 --> 01:02:31,380
「それは荒野の上に我が見る初めての光たり」
853
01:02:31,390 --> 01:02:34,250
「以来我は日に日にかの地を訪ね恍惚とす」
854
01:02:34,260 --> 01:02:37,310
「我が心が酢で浸されようとも…」
855
01:02:37,310 --> 01:02:40,180
素敵ね。でもそこまで
警報が鳴った
856
01:02:40,190 --> 01:02:43,760
覚えておいてね
後で続きを聞かせてくれなきゃ
857
01:03:01,580 --> 01:03:04,540
50km圏の全ての交差点に検問を
858
01:03:04,540 --> 01:03:07,500
100km圏の全ての駅でも検問しろ
859
01:03:07,550 --> 01:03:10,550
追跡隊員50人と猟犬10匹を
5分以内に用意しろ
860
01:03:10,550 --> 01:03:14,050
プレッツェル・ハウス、ワッフル・ハット
ビアガーデンを全て捜索するぞ
861
01:03:14,050 --> 01:03:18,090
特にアウゲンズバーグと
ジルチブルクの間の大ホテル全てだ
862
01:03:18,140 --> 01:03:20,260
コイツらは危険で
凶悪な犯罪者だ
863
01:03:20,270 --> 01:03:22,480
少なくとも中の3人はな
864
01:03:22,480 --> 01:03:23,680
お前は誰だ?
865
01:03:26,020 --> 01:03:28,810
何をしている? 舎房には
一般人は立ち入りできんぞ
866
01:03:28,900 --> 01:03:32,070
- これは軍の捜査だ
- こちらはジョプリンさんと申しまして…
867
01:03:32,070 --> 01:03:34,360
仕える主人のご母堂が
犠牲者の1人であられます
868
01:03:34,370 --> 01:03:36,820
黙れ
869
01:03:37,620 --> 01:03:40,250
デゴーフ・アンド・タクシーズ家にお仕えか?
870
01:03:40,250 --> 01:03:44,370
10月23日に弁護士ビルモス・コバックスが
殺害されたのは知っているか?
871
01:03:44,380 --> 01:03:46,830
行方不明なのは知っている
872
01:03:47,040 --> 01:03:49,590
彼の遺体は昨夜クンスト美術館の倉庫で
873
01:03:49,590 --> 01:03:51,420
石棺の中から発見された
874
01:03:51,420 --> 01:03:54,260
指が4本失われていた
875
01:03:54,260 --> 01:03:57,210
- 何か知っているかね?
- 何も
876
01:03:58,510 --> 01:04:00,720
ジョプリン氏を外までお連れしろ
877
01:04:11,110 --> 01:04:13,310
メンデルだな
878
01:04:17,950 --> 01:04:20,290
交換手、バーデン=ユーガンの
エクセルシオ・パレス・ホテルを
879
01:04:20,290 --> 01:04:21,900
料金は向こう持ちで
880
01:04:22,080 --> 01:04:24,120
仕方がない
これしか頼るすべが無い
881
01:04:24,120 --> 01:04:25,500
待ちます、ありがとう
882
01:04:25,500 --> 01:04:28,420
最後の望みよ。でなきゃ
お前には教えられないんだから
883
01:04:28,420 --> 01:04:31,420
言葉にも出しちゃ駄目
生きてる限り仄めかしてもいけない
884
01:04:31,420 --> 01:04:33,380
- 誓える?
- もちろん。何なんです?
885
01:04:33,380 --> 01:04:36,500
言えないわ
(独語)こんばんは、ムッシュー・アイバンをお願い
886
01:04:37,220 --> 01:04:39,920
どうやってトスカーナ・オペラの
初日の最前列を
887
01:04:39,940 --> 01:04:42,560
前日になって手に入れられると思う?
888
01:04:42,560 --> 01:04:45,320
ロイヤル・サクソン美術館の
タペストリー・コレクションを
889
01:04:45,360 --> 01:04:47,310
なぜ個人が閲覧できると?
890
01:04:47,310 --> 01:04:49,560
どうやったらチェズ・ドミニークの角のテーブルを
891
01:04:49,560 --> 01:04:51,570
木曜日に押さえられると思うの?
892
01:04:51,570 --> 01:04:54,150
愛しきアイバン、グスタフよ
893
01:04:54,150 --> 01:04:56,360
ええ、5分前まではそうだったのよ
894
01:04:56,360 --> 01:04:59,570
臨時で自分自身を釈放したって所かしらね
895
01:04:59,580 --> 01:05:02,330
なんと下水管が使えたのよ
896
01:05:02,330 --> 01:05:05,160
アイバン、遮って悪いけど
ちょっと急いでるの
897
01:05:05,160 --> 01:05:06,910
これは正式な要請です
898
01:05:07,040 --> 01:05:10,240
我は此処に我が結社に要請す…
899
01:05:10,302 --> 01:05:15,260
第4部
“クロスキー秘密結社”
900
01:05:15,380 --> 01:05:16,920
かけ直すよ、グスタフ
901
01:05:17,130 --> 01:05:19,250
ああ、そのまま待ってて
902
01:05:19,260 --> 01:05:22,560
失礼しました
歩いて行かれたいのですね?
903
01:05:22,560 --> 01:05:24,680
今ここです
簡単ですよ
904
01:05:24,680 --> 01:05:26,890
海岸沿いに歩いて左折です
905
01:05:27,020 --> 01:05:29,220
ジョジョ、ご案内しろ
906
01:05:31,730 --> 01:05:34,390
シャトー・ルックスの
ムッシュー・ジョージズにつないで
907
01:05:36,030 --> 01:05:39,530
♪ハッピー・バースデー・ツゥー・ユー
908
01:05:39,530 --> 01:05:40,620
代われ
909
01:05:40,620 --> 01:05:42,330
♪ハッピー・バースデー…
910
01:05:42,330 --> 01:05:43,690
もしもし、アイバンか?
911
01:05:45,620 --> 01:05:47,700
分かった
912
01:05:47,710 --> 01:05:50,700
プラッツォ・プリンシペサの
ムッシュー・ディノにつないでくれ
913
01:05:52,290 --> 01:05:54,830
高く、もっと高くだ!
914
01:05:56,510 --> 01:05:58,380
代われ
915
01:05:58,380 --> 01:06:00,220
- ムッシュー・ジョージズ?
- 高く
916
01:06:00,220 --> 01:06:02,550
なるほど
今すぐ
917
01:06:03,760 --> 01:06:06,550
ロテル・コート・ド・キャップの
ムッシュー・ロビンにつないで
918
01:06:08,190 --> 01:06:10,300
…ニ、サン
919
01:06:11,310 --> 01:06:14,360
ムッシュー・ロビン
ムッシュー・ディノからお電話です
920
01:06:14,360 --> 01:06:16,560
代われ
921
01:06:17,650 --> 01:06:20,610
- イチ、ニ、サン
- もしもし、ディノ
922
01:06:20,610 --> 01:06:24,230
なるほど、ディノ
分かった、ディノ
923
01:06:25,660 --> 01:06:28,530
リッツ・インペリアルの
ムッシュー・マーティンにつないでくれ
924
01:06:30,120 --> 01:06:32,030
塩が多過ぎる
925
01:06:32,130 --> 01:06:35,250
胡椒が足りない
926
01:06:35,250 --> 01:06:37,460
代われ
927
01:06:39,300 --> 01:06:41,510
- ロビンか? マーティンだ
- 塩が多過ぎ
928
01:06:41,510 --> 01:06:43,710
それは聞いたよ
929
01:06:44,810 --> 01:06:47,970
出来るかも
電話をしてみよう
930
01:06:52,810 --> 01:06:55,570
サージ・Xは行方不明
コバックス弁護士も行方不明
931
01:06:55,570 --> 01:06:58,570
マダムDは死んだ
「林檎を持った少年」は盗難、私達だけど
932
01:06:58,570 --> 01:07:01,320
デミトリとジョプリンは
あこぎな冷血漢で
933
01:07:01,320 --> 01:07:04,660
グスタフ・Hは逃亡中
他に何かある?
934
01:07:04,660 --> 01:07:07,580
- ゼロは困惑中
- ゼロが困惑中か、なるほど
935
01:07:07,580 --> 01:07:09,910
言うなれば筋書きが「濃くなった」と
936
01:07:10,120 --> 01:07:12,780
なんでそんな表現するの?
スープに例えて?
937
01:07:12,790 --> 01:07:14,990
知りません
938
01:07:19,670 --> 01:07:21,540
乗れ
939
01:07:23,680 --> 01:07:25,300
執事を見つけた
940
01:07:25,300 --> 01:07:28,310
ゲーベルマイスター山頂近くの
丘陵に隠れている
941
01:07:28,310 --> 01:07:32,080
明日の昼に会えるように説得できた
頂上の展望台だ
942
01:07:32,190 --> 01:07:34,640
誰にも言うな
ヤツが何もかも説明する
943
01:07:34,690 --> 01:07:36,860
お2人の汽車は4分半後に発車する
944
01:07:36,860 --> 01:07:38,570
これが乗車券
945
01:07:38,570 --> 01:07:40,940
- 3等車?
- 満席だったんだ
946
01:07:41,150 --> 01:07:44,740
だが車掌はウチのベルサイユの
ソムリエだった男で
947
01:07:44,740 --> 01:07:46,070
便宜を図ってくれたよ
948
01:07:46,330 --> 01:07:48,530
食堂車に入る時は
これを身に付けて
949
01:07:51,210 --> 01:07:53,410
それともう1つ
950
01:07:54,750 --> 01:07:56,950
レア・ド・パナーシュ
951
01:07:59,380 --> 01:08:01,710
半オンスの物しか無かった
952
01:08:05,720 --> 01:08:07,890
気持ちを表す贈り物をしなくちゃ
953
01:08:07,890 --> 01:08:10,470
- お金いくら持ってる?
- 42クルーベックと切手3枚
954
01:08:10,470 --> 01:08:12,680
25ちょうだい
955
01:08:16,230 --> 01:08:19,350
- ご加護を
- 止めてくれ
956
01:08:35,920 --> 01:08:37,670
- 後は任せるしか無かった
- なんて事だい
957
01:08:37,670 --> 01:08:41,670
こうなるとは思わなかったよ
さて、次はどうする?
958
01:08:41,670 --> 01:08:47,130
義足の妹に会いに行け
今回は強く出ろ
959
01:08:54,270 --> 01:08:57,100
まったく、このやろう
960
01:09:20,540 --> 01:09:22,750
何だこれは!?
961
01:09:26,800 --> 01:09:29,840
こりゃ一体どういう事だ!?
962
01:09:29,850 --> 01:09:31,640
「林檎を持った少年」は隠したのかと
963
01:09:31,640 --> 01:09:34,220
- 今気付いたの?
- 価格査定に出したんじゃ…
964
01:09:34,390 --> 01:09:36,160
冗談止めてくれ!!
965
01:09:36,160 --> 01:09:37,880
(仏語)ご主人様
966
01:09:38,600 --> 01:09:41,640
ムッシュー・グスタフが
お持ちになったと思います
967
01:09:49,080 --> 01:09:50,610
サージのことは怒ってない
968
01:09:50,620 --> 01:09:53,190
倫理感が足りないって
責めるのは酷よね
969
01:09:53,330 --> 01:09:55,490
彼は怯えた、肝の小さい
卑怯者でしかない
970
01:09:55,500 --> 01:09:57,660
- 彼のせいじゃ無いわよね?
- どうでしょう。状況に依ります
971
01:09:57,670 --> 01:09:59,370
それって何にでも言えるでしょう
972
01:09:59,380 --> 01:10:00,880
「状況に依る」
そりゃ状況に依るわよ
973
01:10:00,880 --> 01:10:02,670
もちろん状況に依ります
もちろん状況に依ります
974
01:10:02,670 --> 01:10:04,960
でもそうよね
状況に依るかもね
975
01:10:04,960 --> 01:10:08,710
だからってアイツを
容赦したりしないんだから
976
01:10:10,890 --> 01:10:15,510
ところで私が主催していいかしら?
結婚式?
977
01:10:15,520 --> 01:10:16,640
喜んで
978
01:10:16,640 --> 01:10:19,520
あの娘は何とも愉快で仕方がないわよねえ
979
01:10:19,520 --> 01:10:21,140
胸はぺちゃんこ、顔の半分は
980
01:10:21,310 --> 01:10:23,100
メキシコ形の痣で覆われて
981
01:10:23,320 --> 01:10:25,530
うだるようなキッチンで
ぶっ続けで汗かいて
982
01:10:25,530 --> 01:10:27,030
メンデルのヤツは、上手い事に
983
01:10:27,030 --> 01:10:28,850
デブ・ゴリラよろしく見張ってるだけ
984
01:10:28,860 --> 01:10:31,190
なのに間違いなく
985
01:10:31,370 --> 01:10:34,660
何時でも何処でも
あの娘は飛び抜けて愛らしい
986
01:10:34,660 --> 01:10:36,110
何がそうさせると思う?
987
01:10:36,330 --> 01:10:38,990
それはあの子の純真さよ
988
01:10:40,870 --> 01:10:43,290
アガサもムッシュー・グスタフを
尊敬してますよ
989
01:10:43,380 --> 01:10:46,160
- そう?
- とっても
990
01:10:46,380 --> 01:10:50,210
それは良い事よ
あの娘が「分かってる」って事だから
991
01:10:50,380 --> 01:10:52,590
大切な事
992
01:10:54,720 --> 01:10:56,920
アガサに言い寄らないで下さい
993
01:11:36,770 --> 01:11:39,650
[地元女性の頭部]
[洗濯カゴの中で発見さる]
994
01:11:42,650 --> 01:11:46,110
朝の4時に女のもとに電報が
届けられサインしています
995
01:11:46,110 --> 01:11:49,060
封筒は遺体のそばに
ありましたが中身は空でした
996
01:11:49,650 --> 01:11:52,950
ですが電話局では電信のカーボンテープを
常に24時間保存しておりますので
997
01:11:52,950 --> 01:11:55,320
写して参りました
読みます
998
01:11:56,120 --> 01:11:57,650
「荷物をまとめろ、句点」
999
01:11:57,660 --> 01:11:59,870
「何時でも発てるように準備しろ、句点」
1000
01:11:59,870 --> 01:12:02,620
「隠れ家はゲーベルマイスター山頂付近、句点」
1001
01:12:02,620 --> 01:12:05,160
「この電報は破り捨てろ。愛を。終了」
1002
01:12:06,000 --> 01:12:08,040
洗濯カゴは何処だ?
1003
01:12:20,440 --> 01:12:24,360
[人里離れた丘陵]
[ゲーベルマイスター山頂近く]
1004
01:12:33,110 --> 01:12:35,310
お客さん、どちらまで?
1005
01:12:38,870 --> 01:12:41,320
スキー? そり滑り?
山登り?
1006
01:12:50,920 --> 01:12:53,080
3クルーベックです
1007
01:13:03,020 --> 01:13:05,480
アガサに速達電報を打った
1008
01:13:05,480 --> 01:13:07,880
決めてあった手筈通り
1009
01:13:07,940 --> 01:13:10,720
街のジプシー・キャラバンに隠れろと
1010
01:13:10,730 --> 01:13:12,730
ムッシュー・グスタフと私は
1011
01:13:12,740 --> 01:13:15,280
ズブロフカ・アルプスを東へと向かった
1012
01:13:15,300 --> 01:13:18,230
高地で執事サージ・Xと
ランデブーするためである
1013
01:13:18,230 --> 01:13:19,950
[ゲーベルマイスター山頂駅]
1014
01:13:19,950 --> 01:13:22,400
安全のため我々は駅少し手前の
1015
01:13:22,580 --> 01:13:25,110
貨物場で降車していた
1016
01:13:32,590 --> 01:13:34,460
レア・ド・パナーシュだ
1017
01:13:36,800 --> 01:13:40,640
[日中]
[頂上展望台]
1018
01:13:44,930 --> 01:13:47,560
ものすごい眺めね
とにかくそれは認めるわ
1019
01:13:47,560 --> 01:13:49,760
そうですね
1020
01:14:00,620 --> 01:14:04,160
「これはしばしば言われるが
如何なる雪のひとひらでさえ」
1021
01:14:04,160 --> 01:14:08,030
- 「その純粋かつ完璧たる形を…」
- 誰か来ます
1022
01:14:10,290 --> 01:14:13,750
あなたがネーブルズバッドのグランド・ブダペスト
ホテルのムッシュー・グスタフかな?
1023
01:14:13,750 --> 01:14:16,500
- ああ
- 次のケーブルカーにお乗りなさい
1024
01:14:55,920 --> 01:14:59,460
あなたがネーブルズバッドのグランド・ブダペスト
ホテルのムッシュー・グスタフかな?
1025
01:14:59,630 --> 01:15:01,920
- ああ
- 私と入れ替わって
1026
01:15:31,210 --> 01:15:34,160
あなたがネーブルズバッドのグランド・ブダペスト
ホテルのムッシュー・グスタフかな?
1027
01:15:34,170 --> 01:15:37,160
- ああ
- これを着て、歌って
1028
01:16:05,070 --> 01:16:07,830
- あなたがネーブルズバッドのグランド・
- そうだってばさ
1029
01:16:07,830 --> 01:16:08,990
懺悔なさい
1030
01:16:08,990 --> 01:16:11,000
私は無実だ
1031
01:16:11,000 --> 01:16:13,070
え? 違う違う
1032
01:16:22,260 --> 01:16:25,130
許してくれ、ムッシュー・グスタフ
決して裏切るつもりは無かった
1033
01:16:25,140 --> 01:16:28,260
奴らに脅されたんだ。なのに今度は
たった1人の身内を殺された
1034
01:16:28,260 --> 01:16:30,100
まあ。今度は誰が殺されたの?
1035
01:16:30,100 --> 01:16:32,590
- 我が愛する妹だ
- 義足のお嬢さん?
1036
01:16:32,770 --> 01:16:34,270
- そうです
- 人でなしめ!
1037
01:16:34,270 --> 01:16:35,940
あなたには初めに警告したはずだ
1038
01:16:35,940 --> 01:16:37,440
分かってるわ、ダーリン
でもそれは置いておいて
1039
01:16:37,440 --> 01:16:40,860
聞いて。こんな事頼むの悪いんだけど
私の無実を証明してもらわないと困るの
1040
01:16:40,860 --> 01:16:44,100
- 妹さんの事は…
- それだけじゃない
1041
01:16:44,110 --> 01:16:45,630
- まだあるんだ
- そう、続けて
1042
01:16:45,740 --> 01:16:47,910
殺害された時に限り有効な
1043
01:16:47,910 --> 01:16:51,220
2通目の遺書をマダムDが作成した時
1044
01:16:51,240 --> 01:16:52,910
私は証人だった
1045
01:16:52,910 --> 01:16:54,530
- 2通目の遺書?
- そうだ
1046
01:16:54,710 --> 01:16:56,290
- 消された時のため?
- そう
1047
01:16:56,290 --> 01:16:58,000
- そうなの
- でも、彼らは破り捨ててしまった
1048
01:16:58,000 --> 01:16:59,580
- おやまあ
- ただし…
1049
01:16:59,750 --> 01:17:01,300
- ええ?
- 私が写しを取っておいた
1050
01:17:01,300 --> 01:17:03,580
2通目の遺書の2番目の写し?
1051
01:17:03,800 --> 01:17:05,250
- そうだ
- それで?
1052
01:17:07,800 --> 01:17:10,180
何て書いてあるの? 何処にあるの?
一体なんなのよう、もう!
1053
01:17:10,180 --> 01:17:13,180
もったいぶらないで。こっちにすれば
とんでもない悪夢なんだから
1054
01:17:13,180 --> 01:17:15,930
一体どうなっているのか
教えてちょうだいっ!
1055
01:17:17,400 --> 01:17:21,180
サージ? サージ?
サージ!
1056
01:17:24,820 --> 01:17:27,270
こりゃ酷い
首を絞められてる
1057
01:17:55,060 --> 01:17:56,260
乗って!
追っかけましょう!
1058
01:18:04,030 --> 01:18:06,360
- 捕まえたらどうするんです?
- どうしましょう
1059
01:18:06,360 --> 01:18:08,980
アイツは気違いの人殺しだものね
止めてちょうだい
1060
01:18:08,990 --> 01:18:11,400
無理です
方向すら変えられない
1061
01:18:19,790 --> 01:18:21,790
[冬季大会]
1062
01:19:19,060 --> 01:19:22,760
この狂人、変質者
大嫌い
1063
01:19:35,330 --> 01:19:39,400
「『これが我が生の終わりならば、さらば!』
瀕死の笛吹き少年は叫んだ」
1064
01:19:40,870 --> 01:19:43,500
「マスケット銃が弾け、農兵がどよめく『フレー』」
1065
01:19:43,500 --> 01:19:44,830
「城壁は崩れ落ちる」
1066
01:19:46,340 --> 01:19:50,170
「『我は思い、我は息づき
最後に我は恐るる』少年は…」
1067
01:19:50,170 --> 01:19:52,290
やった!
しとめたわね!
1068
01:19:52,300 --> 01:19:54,420
良くやった、ゼロ!
1069
01:20:05,360 --> 01:20:07,810
グスタフ・H
お前は逃亡犯だ!
1070
01:20:08,030 --> 01:20:12,030
法に従い投降せよ。さすれば私が
公正な処遇を保証しよう
1071
01:20:12,030 --> 01:20:13,650
逃げてはならぬ!
1072
01:20:13,660 --> 01:20:15,370
- どうします?
- そうね
1073
01:20:15,370 --> 01:20:18,490
あの監獄に戻るくらいなら
この崖から飛び降りる方がましよ
1074
01:20:18,490 --> 01:20:21,200
殺し屋のバイクで逃げましょう
アガサを拾って
1075
01:20:21,210 --> 01:20:24,210
「林檎を持った少年」を持って
マルタ・リビエラで生き延びるんです
1076
01:20:24,210 --> 01:20:27,130
良く言った!
驚いたわ、ゼロ。ありがとう
1077
01:20:27,130 --> 01:20:29,750
暴力により殉職した
忠実な奉公人のために
1078
01:20:29,920 --> 01:20:32,710
黙祷しましょう
1079
01:20:35,470 --> 01:20:37,670
さようなら、サージ
1080
01:20:39,060 --> 01:20:41,260
もういいわ
行きましょ
1081
01:20:47,822 --> 01:20:52,780
第5部
“2通目の遺書の2番目の写し”
1082
01:20:53,740 --> 01:20:55,700
戦争は真夜中に始まった
1083
01:20:55,700 --> 01:20:58,450
次の昼にファイファルスタッドは
猛攻撃を受けて陥落
1084
01:20:58,450 --> 01:21:01,900
10個大隊が西側国境を侵攻した
1085
01:21:02,080 --> 01:21:03,910
司令部がネーブルズバッドに進駐した
1086
01:21:12,720 --> 01:21:14,300
[24時間後]
1087
01:21:16,090 --> 01:21:19,800
メンデルより幹部の皆さんへの贈り物です
1088
01:21:22,730 --> 01:21:26,230
スティグリッツ将軍は庭園側の部屋を
お望みで、予備ベッドも欲しいと
1089
01:21:26,230 --> 01:21:28,350
リオポルド公爵のスイートへ通そう
1090
01:21:28,360 --> 01:21:30,270
ボロニエツキ長官の部屋は回線を通した
1091
01:21:30,270 --> 01:21:33,940
1日早く来られる
部屋は401-2-3
1092
01:21:34,070 --> 01:21:35,740
特別兵站部には3階の
1093
01:21:35,740 --> 01:21:37,530
スタンダード・ダブルを
お取りしたと伝えろ
1094
01:21:37,530 --> 01:21:39,610
もっと広い部屋が必要じゃないかな
1095
01:22:02,470 --> 01:22:07,350
「終わりの始まりの
始まりの終わりが始まれり」
1096
01:22:07,350 --> 01:22:10,560
「打ち捨てられた町外れの
サロンの壊れたピアノが」
1097
01:22:10,560 --> 01:22:13,360
「音程はずれの悲しき終章を奏でる」
1098
01:22:13,360 --> 01:22:15,530
こんな冒涜行為を見届けたくは無い物だね
1099
01:22:15,530 --> 01:22:16,690
本当ですね
1100
01:22:16,700 --> 01:22:19,310
グランド・ブダペストは
軍の兵舎と成り果てし
1101
01:22:19,320 --> 01:22:21,900
我が生ある限り2度と
その敷居をまたぐ事無かるべし
1102
01:22:22,030 --> 01:22:23,660
- 僕もです
- そしてまた…
1103
01:22:23,660 --> 01:22:26,860
いや、やっぱり今すぐ中に入った方が
良いかもしれませんよ
1104
01:22:28,460 --> 01:22:30,240
デミトリ
1105
01:22:32,840 --> 01:22:34,790
アガサ
1106
01:22:45,350 --> 01:22:47,600
デゴーフ・アンド・タクシーズ様ようこそ
私はムッシュー・チャックです
1107
01:22:47,600 --> 01:22:51,010
皆様にはファードナンド王
スイートをご用意しました
1108
01:22:51,190 --> 01:22:53,310
皆さんようこそ
ボン・シュレッカー将軍が…
1109
01:22:53,320 --> 01:22:56,280
- あれは誰だ?
- 何ですか?
1110
01:22:56,280 --> 01:22:59,270
あれが私の絵かも
ご免
1111
01:23:15,550 --> 01:23:17,750
- 6階
- 待ってくれ
1112
01:23:20,720 --> 01:23:21,960
6階だ
1113
01:23:24,890 --> 01:23:26,920
メンデルからの贈り物です
1114
01:23:42,870 --> 01:23:44,070
ちょっと
1115
01:23:44,200 --> 01:23:46,450
菓子屋の娘が荷物を持って
1116
01:23:46,450 --> 01:23:47,740
今ここを通らなかった?
1117
01:23:47,750 --> 01:23:50,330
ええ。デゴーフ・アンド・タクシーズ様と
エレベーターに乗って行きましたよ
1118
01:23:50,330 --> 01:23:52,670
ありがとう
1119
01:23:52,670 --> 01:23:54,330
ちょっと待った
君は誰?
1120
01:23:54,340 --> 01:23:57,750
- オットーです。新しいロビー・ボーイ
- 正しい訓練を受けていないね
1121
01:23:57,760 --> 01:24:00,040
ロビー・ボーイは
そんな事をしゃべっちゃ駄目だ
1122
01:24:00,220 --> 01:24:02,500
壁の石であれ、分かった?
1123
01:24:18,900 --> 01:24:20,770
美しい絵だ
1124
01:24:21,450 --> 01:24:22,650
6階です
1125
01:25:06,280 --> 01:25:08,070
「林檎を持った少年」はどこだ?
1126
01:25:08,830 --> 01:25:11,450
教えるもんか!
1127
01:25:11,870 --> 01:25:15,820
今日こそお前のオカマ尻を
ぶっ飛ばしてやる
1128
01:25:24,970 --> 01:25:26,790
武器を捨てろ!
1129
01:25:48,780 --> 01:25:50,900
- 撃ち方止めっ!
- うわっ!
1130
01:25:50,910 --> 01:25:52,540
止めるんだ!
1131
01:25:52,540 --> 01:25:54,200
誰と誰の撃ち合いだ?
1132
01:25:54,330 --> 01:25:56,920
あれがグスタフ・Hだ!
殺人逃亡犯かつ絵画泥棒
1133
01:25:56,920 --> 01:25:58,240
追いつめたぞ!
1134
01:25:58,420 --> 01:25:59,920
この男はデミトリ
デゴーフ・アンド・タクシーズ
1135
01:25:59,920 --> 01:26:02,720
コイツがコバックス弁護人と
サージ・Xとその義足の妹と
1136
01:26:02,720 --> 01:26:05,120
さらに自分の母親の
殺人を指示したのよ!
1137
01:26:06,590 --> 01:26:08,920
全員動くな
全員逮捕する
1138
01:26:10,050 --> 01:26:12,600
窓の外に居るのは誰だ?
1139
01:26:12,600 --> 01:26:14,800
アガサ!
1140
01:26:20,770 --> 01:26:21,940
310のB
1141
01:26:21,940 --> 01:26:23,560
掴まってて!
すぐ行く!
1142
01:26:48,470 --> 01:26:50,670
絵の裏に…
1143
01:26:56,060 --> 01:26:57,260
アガサ!
1144
01:26:57,390 --> 01:26:59,180
アガサ!
1145
01:26:59,310 --> 01:27:01,510
- 大丈夫?
- そうみたい
1146
01:27:02,860 --> 01:27:05,020
絵の裏側に何かある
1147
01:27:08,530 --> 01:27:09,660
[親展]
1148
01:27:09,740 --> 01:27:12,990
[私が殺害された場合にのみ開封の事
-- マダムD]
1149
01:27:18,330 --> 01:27:21,160
もちろん、マダムは全てを
ムッシュー・グスタフに遺した
1150
01:27:22,960 --> 01:27:25,620
「ルッツ城」と呼ばれた豪邸と
1151
01:27:26,840 --> 01:27:30,130
兵器、医療薬、布地を
生産する幾つもの工場
1152
01:27:32,850 --> 01:27:34,800
主要な新聞のシンジケート
1153
01:27:35,080 --> 01:27:38,300
[コンシェルジュ、無実]
それに、もうお分かりかと思うが
1154
01:27:38,350 --> 01:27:41,230
[殺害伯爵夫人の息子、行方不明]
この建物
1155
01:27:41,230 --> 01:27:44,080
グランド・ブダペスト・ホテル
1156
01:27:44,480 --> 01:27:46,020
グスタフ氏は私を後継に指名した
1157
01:27:46,030 --> 01:27:49,900
戦争が進むにつれ
私は私を受け入れた国のために働いた
1158
01:27:49,900 --> 01:27:53,770
当時のコンシェルジュ机は
まだ隣の倉庫に置いてある
1159
01:27:53,870 --> 01:27:56,120
グスタフ氏はその取り巻きと変わらなかった
1160
01:27:56,120 --> 01:27:59,780
傷付きやすく、わがままで
気取り屋で、ブロンドで、欲求不満
1161
01:28:00,460 --> 01:28:02,830
それにとうとう
お金持ちにもなった
1162
01:28:03,920 --> 01:28:07,250
でも長生きをする事はなかった
1163
01:28:11,880 --> 01:28:13,930
「愛する者たちよ
我々はここに集い…」
1164
01:28:13,930 --> 01:28:16,000
我が愛しきアガサも同じだった
1165
01:28:16,010 --> 01:28:18,320
アガサと生まれたばかりの息子は
1166
01:28:18,360 --> 01:28:21,640
2年後にプロシア風邪で命を落とした
くだらない病気だ
1167
01:28:21,640 --> 01:28:27,020
今ならば1週間で治るが
当時は何百万人もが死んだ
1168
01:28:30,070 --> 01:28:32,070
占領から21日目
1169
01:28:32,070 --> 01:28:36,360
独立国ズブロフカが
正式に消滅したその朝
1170
01:28:36,490 --> 01:28:38,620
私達はムッシュー・グスタフと
共にルッツへと旅立った
1171
01:28:38,620 --> 01:28:41,030
ところで、あなたの質問への答えだけど
1172
01:28:41,040 --> 01:28:43,120
もちろんそうよ
1173
01:28:44,300 --> 01:28:47,750
ゼロは私のホテルでの初めての仕事は
何だったのかって聞いたのよ
1174
01:28:47,750 --> 01:28:50,210
私はきっと
グランド・ブダペストに仕えた
1175
01:28:50,210 --> 01:28:52,920
最高のロビー・ボーイだったと
言えるでしょうね
1176
01:28:52,930 --> 01:28:54,630
そうだったと思う
1177
01:28:54,640 --> 01:28:56,680
この子が追い越すまでは
1178
01:28:56,680 --> 01:28:59,760
でもね、ほら、この子には
優秀な教官が付いていたから
1179
01:28:59,770 --> 01:29:01,090
全くです
1180
01:29:06,110 --> 01:29:08,340
「何処より来れし」
1181
01:29:08,400 --> 01:29:10,860
「我が夜窓を横切る」
1182
01:29:10,860 --> 01:29:15,240
「連なり輝ける天空の兄弟星」
1183
01:29:15,240 --> 01:29:18,200
「方は東より 方は西より」
1184
01:29:18,200 --> 01:29:20,190
素敵ねえ
1185
01:29:20,200 --> 01:29:22,400
アガサに言い寄らないで下さい
1186
01:29:24,670 --> 01:29:27,080
どうしてまた
野原の真ん中で停まるんだろう?
1187
01:29:32,260 --> 01:29:35,010
[11月17日]
[ルッツ・ブリッツ国発足]
1188
01:29:35,130 --> 01:29:38,420
あの黒い軍服ったら
うんざりよねえ
1189
01:29:42,850 --> 01:29:46,010
こんにちは
皆さんの話をしていた所よ
1190
01:29:46,020 --> 01:29:50,020
- 身分証明を
- 喜んで、何時でも
1191
01:29:54,150 --> 01:29:56,700
暗殺団の方に正式にお会いするのは
1192
01:29:56,760 --> 01:29:58,700
これが初めてだわ
1193
01:29:58,700 --> 01:30:00,900
ご機嫌いかが?
1194
01:30:01,870 --> 01:30:04,110
十年一日、そうじゃない?
1195
01:30:08,290 --> 01:30:12,000
それは第3種労働許可の
非定住ビザだわよ、ダーリン
1196
01:30:12,000 --> 01:30:13,210
これを見て
1197
01:30:14,760 --> 01:30:17,300
[移動許可 — ヘンクルズ警部]
[ルッツ武装警察]
1198
01:30:22,260 --> 01:30:25,340
- 表に出ろ
- ちょっと動かないで
1199
01:30:27,310 --> 01:30:29,900
断言する
この青年に指1本でも触れたら
1200
01:30:29,900 --> 01:30:32,220
お前さんを不名誉除隊にして
営巣にぶち込んで
1201
01:30:32,230 --> 01:30:35,520
そして日が暮れる前に
縛り首にしてやる
1202
01:30:36,740 --> 01:30:40,020
昔は人間性が知られたはずの
この残忍な屠殺小屋にも
1203
01:30:40,020 --> 01:30:43,240
ほんの少しは文明のかけらが
残っているのだ
1204
01:30:46,080 --> 01:30:50,030
この、汚い、穢れた
あばた面の、ファシストの豚めっ!
1205
01:30:50,920 --> 01:30:53,800
グスタフ氏はその1人だった
1206
01:30:53,800 --> 01:30:56,000
それ以外に述べる事があろうか?
1207
01:31:03,350 --> 01:31:06,220
結局、どうなったんです?
1208
01:31:06,230 --> 01:31:08,430
結局、グスタフ氏は銃殺されました
1209
01:31:10,060 --> 01:31:12,260
だから私が全てを受け継いだのです
1210
01:31:20,950 --> 01:31:23,540
夕食が終わった後
部屋の鍵を取りに行った
1211
01:31:23,560 --> 01:31:26,200
しかしムッシュー・ジョーは
持ち場を離れてしまっていた
1212
01:31:26,220 --> 01:31:28,830
きっと私達の事など
忘れてしまったのでしょうな
1213
01:31:28,830 --> 01:31:32,490
当たり前だが、今では
グランド・ブダペストの様な建造物は
1214
01:31:32,670 --> 01:31:36,330
一部を除き人民の財産となっている
1215
01:31:37,130 --> 01:31:40,800
グスタフ氏と新政府との
取引の詳細は公表されなかったが
1216
01:31:40,860 --> 01:31:43,520
その結末は公の秘密である
1217
01:31:43,720 --> 01:31:48,480
ゼロ・ムスタファ氏は赤字の
壊れかけた廃墟ホテルの為に
1218
01:31:48,480 --> 01:31:51,100
財産の多くを手放したのだ
1219
01:31:51,660 --> 01:31:53,020
なぜだろう?
1220
01:31:53,040 --> 01:31:55,320
[ムッシュー・グスタフ・スイート]
単なる感傷の為か?
1221
01:31:55,320 --> 01:31:59,240
自分には似合わぬ
差し出がましい事ではあったが
1222
01:31:59,240 --> 01:32:01,310
聞かずには居られなかった
1223
01:32:01,320 --> 01:32:03,900
我が正気を保つため、であったと思う
1224
01:32:05,720 --> 01:32:08,330
こんな事を伺って申し訳ない
怒らないで頂きたいのですが
1225
01:32:08,330 --> 01:32:10,530
いえ、そんな事はありません
1226
01:32:10,620 --> 01:32:14,600
つまりここが、失われた世界との
最後の接点だったからでしょうか?
1227
01:32:14,600 --> 01:32:17,000
グスタフ氏の世界
とでも言いましょうか
1228
01:32:17,000 --> 01:32:18,960
グスタフ氏の世界?
1229
01:32:19,010 --> 01:32:22,130
いや、それは違いますな
1230
01:32:22,130 --> 01:32:26,340
グスタフ氏と私は天命を分担したのです
そんな物は必要ない
1231
01:32:26,350 --> 01:32:31,300
いや、このホテルは
アガサの為に取ってあるのです
1232
01:32:32,440 --> 01:32:34,020
私達は幸せだった
1233
01:32:34,020 --> 01:32:36,920
この場所で、ほんのひと時だけ
1234
01:32:41,320 --> 01:32:46,020
実のところ、グスタフ氏の世界などという物は
彼の前に既に失われていたと思います
1235
01:32:46,030 --> 01:32:47,650
でも確かに、グスタフ氏は
1236
01:32:47,830 --> 01:32:51,740
その優雅さの面影を、少しだけ
引き延ばしてはくれたでしょうな
1237
01:32:52,870 --> 01:32:55,210
- 上に行かれるか?
- いえ、少しくつろいでから
1238
01:32:55,210 --> 01:32:57,370
おやすみなさい
1239
01:33:02,380 --> 01:33:03,670
次の週
1240
01:33:03,800 --> 01:33:06,170
私は治療の為に南アメリカに向け船出した
1241
01:33:06,180 --> 01:33:09,050
その後外国で長いこと流浪の旅をした
1242
01:33:09,060 --> 01:33:12,130
何年もの間、欧州には帰らなかった
1243
01:33:16,820 --> 01:33:19,800
それは、魔法の掛かった廃墟であった
1244
01:33:24,560 --> 01:33:28,100
だが以降
再びそこを訪れる事も無かった
1245
01:33:41,420 --> 01:33:49,010
この物語はシュテファン・ツヴァイク
(1881–1942)の著作から着想を得た
1246
01:39:47,920 --> 01:39:50,920
[字幕: のざらし]