1 00:00:06,583 --> 00:00:08,166 これまでの将軍 2 00:00:08,166 --> 00:00:10,583 鞠子の氷のような 素振りは変わりませなんだ 3 00:00:10,583 --> 00:00:13,666 それが あの男に対しては 違うのでございます 4 00:00:14,625 --> 00:00:16,083 何とか言え! 5 00:00:16,083 --> 00:00:17,333 ああっ 6 00:00:18,000 --> 00:00:20,333 文太郎! 俺を見ろ! 7 00:00:22,125 --> 00:00:23,458 動くでない! 8 00:00:23,458 --> 00:00:24,458 うわあ 9 00:00:26,250 --> 00:00:28,166 死者は数千 10 00:00:28,166 --> 00:00:29,875 我が軍勢は壊滅状態 11 00:00:30,416 --> 00:00:33,250 今こそ 紅天の時にございます 12 00:00:33,833 --> 00:00:36,375 一気呵成かせいに 大坂城に攻め入る策じゃ 13 00:00:36,375 --> 00:00:39,583 殿の父親違いの弟君 14 00:00:39,583 --> 00:00:42,708 佐伯信辰殿が加勢してくれよう 15 00:00:44,250 --> 00:00:48,541 間もなく わしは 事実無根の罪で弾劾されよう 16 00:00:48,791 --> 00:00:49,875 紅天じゃ 17 00:00:49,875 --> 00:00:51,416 えい えい 18 00:00:51,416 --> 00:00:53,250 おう! 19 00:01:20,000 --> 00:01:21,000 うっ 20 00:01:24,666 --> 00:01:26,416 戦は終わった! 21 00:01:27,833 --> 00:01:29,916 戦は終わった! 22 00:01:32,083 --> 00:01:33,416 戦は終わった! 23 00:01:34,291 --> 00:01:36,875 虎永様の勝ちじゃ! 24 00:01:37,375 --> 00:01:39,375 おう! 25 00:02:06,583 --> 00:02:09,625 あっぱれじゃ 虎永殿 26 00:02:10,333 --> 00:02:14,166 女子おなごを知る前に 初陣で勝利する者は多くない 27 00:02:15,875 --> 00:02:17,583 正式に降伏いたす 28 00:02:19,375 --> 00:02:25,041 溝口は正々堂々戦うたと そなたの右筆ゆうひつに伝えてくれぬか 29 00:02:25,750 --> 00:02:29,541 勝ち目のない戦に 立ち向かわざるを得なかったのは 30 00:02:30,333 --> 00:02:31,750 我が宿命じゃ 31 00:03:03,958 --> 00:03:06,750 わしは戦の神童に介錯かいしゃくされたと 32 00:03:07,958 --> 00:03:10,000 そう書き記してもらいたい 33 00:03:53,041 --> 00:03:55,875 来世でまた会えるやもしれんな 34 00:03:57,291 --> 00:04:00,250 その時 その太刀を握っておるのは 35 00:04:00,500 --> 00:04:02,333 わしかもしれんぞ 36 00:05:25,916 --> 00:05:28,500 {\an8}ジェームズ・クラヴェル 原作小説に基づく 37 00:05:34,416 --> 00:05:36,416 SHOGUN 将軍 38 00:06:07,375 --> 00:06:09,375 お二人が 最後に言葉を交わされたのは 39 00:06:09,375 --> 00:06:10,750 いつ程でござるか? 40 00:06:13,625 --> 00:06:15,041 はるか昔よ 41 00:06:18,833 --> 00:06:20,875 弟君に断られた場合は? 42 00:06:24,208 --> 00:06:28,375 太刀をぬらしもせぬうちに 我らの負けじゃ 43 00:06:36,625 --> 00:06:39,458 蛮人に余計なことは言わぬよう 言い聞かせておけ 44 00:06:39,458 --> 00:06:42,250 安針様は 承知しておいでにございまする 45 00:07:21,875 --> 00:07:23,625 近くのあの谷で 46 00:07:24,500 --> 00:07:26,750 壊滅した軍勢を見かけたようだが 47 00:07:27,750 --> 00:07:29,375 気のせいでござろうか? 48 00:07:29,375 --> 00:07:31,166 お主の申すとおりじゃ 49 00:07:31,166 --> 00:07:35,916 我が手勢は先の地震で 大損害を被った 50 00:07:38,875 --> 00:07:41,083 そこで困り果てた兄上は 51 00:07:41,916 --> 00:07:45,666 愚弟の大軍勢を呼びつけるほか なかったというわけでござるか 52 00:07:53,000 --> 00:07:54,541 はあはははっ 53 00:07:55,291 --> 00:07:56,791 どけちな兄上じゃ! 54 00:07:57,208 --> 00:08:00,625 大軍勢を挙げての豪華なもてなしを 当て込んでおったのに 55 00:08:01,416 --> 00:08:05,000 我が側室どもは恐ろしがって 震えておりまするぞ! 56 00:08:05,000 --> 00:08:05,916 ははははっ 57 00:08:07,041 --> 00:08:09,750 息災であるようじゃのう 弟よ 58 00:08:09,750 --> 00:08:14,791 いや 有善寺のしがない湯を 治めるほかにすることがなければ 59 00:08:14,791 --> 00:08:16,708 兄上も健やかになりまする 60 00:08:16,708 --> 00:08:17,791 ふっ 61 00:08:19,708 --> 00:08:20,708 おお 62 00:08:21,333 --> 00:08:23,541 うわさは まことでござったか 63 00:08:24,250 --> 00:08:25,916 蛮人を手なずけられたと 64 00:08:27,291 --> 00:08:28,208 安針 65 00:08:29,666 --> 00:08:32,166 安針様 おじぎを忘れぬよう 66 00:08:39,750 --> 00:08:42,875 殿の身内に お目通りがかのうたこと 67 00:08:43,125 --> 00:08:45,375 恐悦至極に存じまする 68 00:08:45,375 --> 00:08:48,083 はっはははっ 69 00:08:48,083 --> 00:08:51,125 こちらこそ恐悦至極にござる 70 00:08:51,125 --> 00:08:52,083 ふっ 71 00:08:52,833 --> 00:08:55,333 安針は我が旗本じゃ 72 00:08:56,875 --> 00:08:59,916 安針の大砲おおづつの戦術は 73 00:08:59,916 --> 00:09:03,125 我らが大義を果たすために 欠かせぬものじゃ 74 00:09:03,125 --> 00:09:05,291 拙者にお申し出がおありとか 75 00:09:05,291 --> 00:09:08,416 そうじゃ その話は明日でよかろう 76 00:09:09,750 --> 00:09:12,458 今宵こよいはおおいに 飲み明かそうではないか 77 00:09:12,458 --> 00:09:14,666 ははははっ 78 00:09:14,666 --> 00:09:18,458 兄上のお申し出 早くもそそられまするな 79 00:09:20,458 --> 00:09:21,916 関東の侍衆よ! 80 00:09:23,291 --> 00:09:27,958 我が家来衆はそのほうらと共に 血を流さんと奮い立っておるぞ! 81 00:09:31,750 --> 00:09:36,250 ご足労いただき痛み入るぞ 佐伯殿 82 00:09:36,666 --> 00:09:38,416 ははははっ 83 00:09:38,416 --> 00:09:42,916 じゃがその前に この地には あまたの温泉があると聞いた 84 00:09:43,916 --> 00:09:44,916 ついて参れ 85 00:10:09,416 --> 00:10:11,208 暴利をむさぼりおって 86 00:10:11,208 --> 00:10:13,500 菊の一晩の勤めに300匁もんめ 87 00:10:13,833 --> 00:10:15,916 7日なら12000じゃと 88 00:10:16,458 --> 00:10:17,375 ふんっ 89 00:10:17,875 --> 00:10:21,375 わしの種違いの弟に 色目を使うだけでか? 90 00:10:22,208 --> 00:10:24,916 お吟の言い値は もっと高うございました 91 00:10:24,916 --> 00:10:27,083 それをここまで下げるには 92 00:10:27,083 --> 00:10:31,250 殿が線香一本分の時を お吟と二人きりで会うことを 93 00:10:31,250 --> 00:10:32,875 ご承知くださらねばなりませぬ 94 00:10:32,875 --> 00:10:34,500 たわけたことを 95 00:10:35,833 --> 00:10:36,833 ふう 96 00:10:37,166 --> 00:10:39,083 殿 安針様でございます 97 00:10:44,291 --> 00:10:46,000 用があると 98 00:10:47,166 --> 00:10:51,041 今宵のうたげでは 行儀よく振る舞うように伝えよ 99 00:10:51,041 --> 00:10:54,291 鉄砲ではなく刀を身に着け 100 00:10:55,375 --> 00:10:56,958 旗本らしくせよと 101 00:10:56,958 --> 00:11:00,583 行儀よく刀を身に着けて 102 00:11:00,583 --> 00:11:02,791 旗本らしくするようにと 103 00:11:02,791 --> 00:11:04,125 質問がある 104 00:11:06,666 --> 00:11:09,708 紅天での俺の役目は 105 00:11:10,625 --> 00:11:12,958 海戦の指揮官なのだろうか? 106 00:11:15,958 --> 00:11:18,833 紅天で 自分に命ぜられる役割について 107 00:11:19,208 --> 00:11:20,833 お尋ねでございまする 108 00:11:20,833 --> 00:11:23,375 安針の船のことも役目のことも 109 00:11:24,666 --> 00:11:26,333 何も決めてはおらぬ 110 00:11:27,375 --> 00:11:29,000 この話はこれでしまいじゃ 111 00:11:30,916 --> 00:11:31,875 ふうう 112 00:11:31,875 --> 00:11:35,625 その件について 何も決めていないと 113 00:11:35,625 --> 00:11:37,708 もうお聞きしないように 114 00:11:45,500 --> 00:11:49,166 与えられた名誉ってものを 誤解していたようだ 115 00:11:49,500 --> 00:11:52,958 数々の贈り物や肩書 刀や領地を授かったが 116 00:11:52,958 --> 00:11:56,416 実際に役目を果たすとなると 無視される 117 00:11:59,833 --> 00:12:02,250 あの贈り物に 意味などあったのか 118 00:12:04,125 --> 00:12:06,333 “紅天〟とは一体何だ? 119 00:12:08,916 --> 00:12:12,166 安針をここへ呼んだのは 紅天の話をするためではない 120 00:12:12,666 --> 00:12:14,291 もうおしまいに 121 00:12:20,458 --> 00:12:21,958 はああ 122 00:12:28,041 --> 00:12:30,041 覚悟はできてる 123 00:12:30,750 --> 00:12:32,666 どんな運命であろうと 124 00:12:34,250 --> 00:12:37,791 安針様は覚悟ができていると 申しておられまする 125 00:12:38,583 --> 00:12:41,083 どんな宿命が待ち構えていようと 126 00:12:52,291 --> 00:12:54,625 これはこれは 央海様 127 00:12:59,625 --> 00:13:03,250 のちほど菊に 会えるかどうか尋ねに参ったのじゃ 128 00:13:03,708 --> 00:13:04,875 菊は空いておるのか? 129 00:13:04,875 --> 00:13:07,083 あいにく空いておりませぬ 130 00:13:07,250 --> 00:13:11,125 虎永様は弟君の佐伯様のために 131 00:13:11,125 --> 00:13:15,125 お菊を7日の間 お買い上げになったのでございます 132 00:13:15,416 --> 00:13:17,166 話すだけなら構わんだろう? 133 00:13:18,083 --> 00:13:20,083 央海様のような 134 00:13:20,416 --> 00:13:25,125 意気盛んなお若いお侍様に もっと似合いの者を 135 00:13:25,125 --> 00:13:26,875 お探しいたしましょうか? 136 00:13:26,875 --> 00:13:28,458 いや それには及ばぬ 137 00:13:29,041 --> 00:13:31,583 菊が蛮人と枕を交わして以来 138 00:13:32,458 --> 00:13:34,291 そのほうの茶屋はけがれておるわ 139 00:13:34,291 --> 00:13:37,125 安針様がこの茶屋で何をなさろうと 140 00:13:37,125 --> 00:13:40,791 私が口出しする筋合いでは ございませぬが 141 00:13:42,875 --> 00:13:45,625 よくよく思い返してみれば 142 00:13:46,208 --> 00:13:51,000 あの夜 安針様のお心は 別のお方のもとにあったような 143 00:14:02,166 --> 00:14:03,416 これに相違ない 144 00:14:04,333 --> 00:14:05,708 藤 145 00:14:07,500 --> 00:14:08,375 おじい様 146 00:14:08,375 --> 00:14:09,458 おお 147 00:14:10,250 --> 00:14:13,500 面目次第もござりませぬ おいでになるとは存じませず 148 00:14:13,500 --> 00:14:18,250 いや ちと驚かせようと思うてな ははははっ 149 00:14:20,500 --> 00:14:22,166 おお 150 00:14:23,125 --> 00:14:26,125 よう目が行き届いておるのう 151 00:14:29,416 --> 00:14:30,250 おう 152 00:14:32,083 --> 00:14:33,875 さほどのことでもござりませぬ 153 00:14:34,458 --> 00:14:35,541 殿 154 00:14:42,958 --> 00:14:44,000 これは 155 00:14:45,416 --> 00:14:48,958 わしからお前に 手渡したいと思うてのう 156 00:14:53,375 --> 00:14:58,583 大坂でお前と別れた時から これはわしが守ると決めておった 157 00:14:59,875 --> 00:15:01,250 おかげさまで 158 00:15:03,583 --> 00:15:05,416 また皆がそろいました 159 00:15:06,166 --> 00:15:10,000 このお務めを果たしましたら 私も自害して 160 00:15:11,083 --> 00:15:12,958 灰になるつもりにございます 161 00:15:14,333 --> 00:15:16,500 なぜ生きようとせぬ 162 00:15:18,083 --> 00:15:19,083 何ゆえ 163 00:15:20,416 --> 00:15:24,541 二人が命を懸けた勝利を 味わおうとせんのだ? 164 00:15:27,166 --> 00:15:28,416 この先に 165 00:15:30,750 --> 00:15:33,000 勝利があるのでございましょうか? 166 00:15:38,250 --> 00:15:39,458 お許しくださりませ 167 00:15:40,875 --> 00:15:42,916 無論 我らは勝利いたしましょう 168 00:15:43,500 --> 00:15:45,750 こちらには猛者がおりますもの 169 00:15:46,875 --> 00:15:49,916 おじい様の息子 文太郎様は 170 00:15:50,458 --> 00:15:52,125 我らの誇りにございまする 171 00:15:56,583 --> 00:15:58,000 はああ 172 00:16:04,541 --> 00:16:05,541 はあ 173 00:16:06,625 --> 00:16:10,291 石堂が全軍を挙げて 大坂に攻めて来ぬかのう 174 00:16:10,833 --> 00:16:12,583 初めて敵を討ち取った時は 175 00:16:13,000 --> 00:16:15,708 初めて女子を知るより 心地よいものじゃと聞いたが 176 00:16:15,708 --> 00:16:18,041 どこでそのようなことを 聞かれたのですか? 177 00:16:18,541 --> 00:16:20,500 誰もがそう申しておるぞ 178 00:16:20,500 --> 00:16:22,750 それは女子によりますぞ 179 00:16:22,750 --> 00:16:24,000 はははっ 180 00:16:27,416 --> 00:16:28,833 冷えるのう 181 00:16:29,333 --> 00:16:31,625 - これはうまそうじゃ - お前もどうじゃ? 182 00:16:57,791 --> 00:17:02,291 兄上の息子も ようやく一人前になりましたな! 183 00:17:02,875 --> 00:17:04,875 最後に会うた時は 184 00:17:04,875 --> 00:17:08,916 顎にも股にも 毛が生えておらなんだのにのう! 185 00:17:11,166 --> 00:17:12,375 これ 甥よ! 186 00:17:12,375 --> 00:17:16,750 お主 月夜の晩ごとに 違う女子を抱いておるのじゃろう 187 00:17:17,625 --> 00:17:19,416 お主の父上もそうであった 188 00:17:19,625 --> 00:17:20,958 何を言うか 189 00:17:21,458 --> 00:17:26,250 女子をたらすことに関しては 叔父上のほうがずっとうわてじゃ 190 00:17:26,250 --> 00:17:29,208 - またしてもざれ言を 191 00:17:29,208 --> 00:17:31,000 兄上は年を召されて... 192 00:17:31,000 --> 00:17:32,083 何の話? 193 00:17:32,083 --> 00:17:36,208 長門様とは久しぶりに会ったと 佐伯様がお話しです 194 00:17:36,333 --> 00:17:39,458 ほら見てみろ 侍女たちも決まりが悪いじゃろ 195 00:17:39,958 --> 00:17:41,833 いやあ 面白うございましたのう 196 00:17:43,833 --> 00:17:46,666 さぞや誇らしいことに ございましょうな 197 00:17:48,333 --> 00:17:51,916 奥方様があのように一心に 198 00:17:51,916 --> 00:17:55,291 安針様への務めを果たされるのを ご覧になると 199 00:17:55,875 --> 00:17:58,083 殿への務めという意味か? 200 00:18:00,875 --> 00:18:05,625 叔父上 お話をお聞かせいただき 大変光栄にござりまする 201 00:18:06,458 --> 00:18:09,333 我が父の若い頃の話を してくださいませぬか? 202 00:18:09,333 --> 00:18:12,666 そうじゃ うってつけの話がある 203 00:18:13,416 --> 00:18:17,041 兄上が元服も迎えぬ年で 初陣に勝ったのは知っておるか? 204 00:18:17,708 --> 00:18:21,291 吉井虎永 戦の神童じゃ! 205 00:18:21,625 --> 00:18:23,583 じゃがすごいのはその後よ 206 00:18:23,583 --> 00:18:25,583 わしが聞いた話では 207 00:18:25,583 --> 00:18:29,291 恥さらしの溝口が降参して こうべを垂れた時 208 00:18:29,291 --> 00:18:32,958 わずか12のこわっぱでありながら 209 00:18:33,291 --> 00:18:35,083 敵将の首を 210 00:18:36,625 --> 00:18:40,291 一刀のもとに斬り落としたのじゃ 211 00:18:46,708 --> 00:18:48,500 佐伯様 212 00:18:48,500 --> 00:18:52,041 殿からの贈り物は いかがでございましたでしょうか? 213 00:18:52,625 --> 00:18:54,041 あっはは 214 00:18:54,916 --> 00:18:56,583 あの遊女じゃな 215 00:18:57,250 --> 00:18:58,458 かたじけない 216 00:18:58,458 --> 00:19:03,083 美しい女子じゃが 美しさなどはかない喜びでござる 217 00:19:03,875 --> 00:19:08,458 川を握ろうとし 夕日を抱こうとするに等しい 218 00:19:08,458 --> 00:19:09,666 ふふふっ 219 00:19:09,666 --> 00:19:10,875 明日は 220 00:19:11,750 --> 00:19:16,583 我らの盟約について 正式に話をしようではないか 221 00:19:17,000 --> 00:19:18,666 今宵ではいけませぬか? 222 00:19:19,041 --> 00:19:20,250 先走るでない 223 00:19:20,250 --> 00:19:21,916 たわけたことを 224 00:19:22,500 --> 00:19:25,750 はっ どっちつかずには我慢がならぬ 225 00:19:26,416 --> 00:19:28,000 いや 豪儀な吉井虎永殿は 226 00:19:28,000 --> 00:19:30,875 わしの軍に 何をくださるというのじゃ? 227 00:19:31,708 --> 00:19:35,500 当地は なかなかに良きところじゃ 228 00:19:36,000 --> 00:19:38,000 もしや兄上は 229 00:19:39,125 --> 00:19:42,166 わしに伊豆を くださるおつもりかのう? 230 00:19:42,166 --> 00:19:44,625 だとしたら大層なものじゃ 231 00:19:44,625 --> 00:19:45,750 お? 232 00:19:47,083 --> 00:19:48,250 我が甥よ 233 00:19:49,083 --> 00:19:51,291 兄上の話がもう一つあるぞ 234 00:19:51,541 --> 00:19:54,041 知る者の少ない話じゃ 235 00:19:54,041 --> 00:19:59,291 兄上が盟約を 強固なものにする人質として 236 00:19:59,291 --> 00:20:01,791 今谷家に送られたその日のこと 237 00:20:02,708 --> 00:20:07,708 我らが母上は兄上に 勇ましゅう振る舞えと言われた 238 00:20:08,083 --> 00:20:11,125 美濃原に臆病者はおらぬとな 239 00:20:12,375 --> 00:20:14,208 じゃが兄上は 240 00:20:15,291 --> 00:20:19,125 母上の腕から離れたとたん 241 00:20:19,125 --> 00:20:21,666 袴はかまにくそを漏らし 242 00:20:23,083 --> 00:20:27,708 そのまま馬で 十里を進んだのだそうじゃ! 243 00:20:27,708 --> 00:20:30,083 はっ はあ 244 00:20:34,458 --> 00:20:35,458 いや 245 00:20:36,708 --> 00:20:39,041 兄上をこけにしたわけでは ござりませぬぞ 246 00:20:41,625 --> 00:20:44,416 わしはずっとその馬を 247 00:20:45,125 --> 00:20:49,000 哀れに思うておったと 申したかったまでのこと 248 00:20:59,083 --> 00:21:00,125 長門よ 249 00:21:01,791 --> 00:21:04,166 お主はどちらが好みじゃ? 250 00:21:05,083 --> 00:21:07,375 おとぎ話か 伝説か 251 00:21:08,250 --> 00:21:11,875 それともまことにあった話か? 252 00:21:12,208 --> 00:21:14,750 例えば兄上の申し出じゃ 253 00:21:15,916 --> 00:21:20,791 拙者が伊豆の領主になれば どんな伝説が生まれていたことか 254 00:21:22,125 --> 00:21:23,541 じゃが 255 00:21:25,000 --> 00:21:28,208 別の申し出を 受けたばかりでござってな 256 00:21:31,250 --> 00:21:33,250 お? 何じゃ? 257 00:21:43,625 --> 00:21:44,750 申し上げます! 258 00:21:45,333 --> 00:21:48,833 佐伯の軍勢が 伊豆から出る すべての道を封じておりまする! 259 00:21:49,916 --> 00:21:51,333 囲め! 260 00:21:52,291 --> 00:21:53,541 はっ! 261 00:21:53,541 --> 00:21:55,833 関所はすべて押さえてある 262 00:21:56,958 --> 00:21:58,083 誰の命じゃ! 263 00:22:19,125 --> 00:22:23,208 “此度こたび 虎永公の儀につき〟 264 00:22:23,208 --> 00:22:26,125 “大老衆の命により〟 265 00:22:26,125 --> 00:22:28,625 “速やかに降伏の上〟 266 00:22:29,375 --> 00:22:32,750 “大坂に登城なさるべく候こと〟 267 00:22:32,750 --> 00:22:37,166 “なお返答の儀は当方の使者〟 268 00:22:37,166 --> 00:22:40,500 “大老 佐伯信辰殿に〟 269 00:22:40,500 --> 00:22:43,125 “申し伝えられるべく候〟 270 00:22:43,750 --> 00:22:45,666 “よってくだんのごとし!〟 271 00:22:46,833 --> 00:22:47,833 大老... 272 00:22:48,583 --> 00:22:52,750 石堂がとうとう わしの後釜を据えたか 273 00:22:52,750 --> 00:22:56,916 かような名誉を 断れる者がおりましょうや 274 00:22:58,291 --> 00:23:02,083 そのほう 天下を乱す気か? 275 00:23:02,666 --> 00:23:03,916 長門よ 276 00:23:03,916 --> 00:23:08,375 根原丞善殺しに対する 正式な沙汰として 277 00:23:08,375 --> 00:23:10,916 お主には切腹が申し付けられた 278 00:23:14,458 --> 00:23:15,791 受け取るでない! 279 00:23:24,916 --> 00:23:26,500 大老衆からの命 280 00:23:28,541 --> 00:23:30,083 確かに承った 281 00:23:32,041 --> 00:23:34,166 しかと熟考を重ね 282 00:23:34,875 --> 00:23:38,291 明日の日没までにご返事つかまつる 283 00:23:43,375 --> 00:23:44,958 ご決心がつくまで 284 00:23:45,458 --> 00:23:50,083 ご家臣一同 網代を出られませぬように 285 00:24:12,083 --> 00:24:13,625 降伏したらどうなる? 286 00:24:13,625 --> 00:24:17,375 我ら全員大坂で 石堂様にひれ伏すことに 287 00:24:17,791 --> 00:24:19,875 虎永様は死罪 288 00:24:21,416 --> 00:24:23,875 忠実な家臣は 切腹するでしょう 289 00:24:23,875 --> 00:24:26,125 船は入り江にある 290 00:24:26,125 --> 00:24:28,833 乗船する許可さえあればいい 291 00:24:28,833 --> 00:24:32,458 今夜ちょっと潜って 船底を確認する 292 00:24:32,458 --> 00:24:34,500 そして竜骨の掃除と修理 293 00:24:34,500 --> 00:24:38,125 マストの設置は 藪重の部下に手伝ってもらう 294 00:24:38,125 --> 00:24:39,666 帆は俺が修理する 295 00:24:41,291 --> 00:24:44,083 脱出したら そのあと... 296 00:24:49,541 --> 00:24:51,583 何ができると? 297 00:24:53,375 --> 00:24:56,291 何もしないよりましだ 298 00:25:49,833 --> 00:25:52,916 先ごろ そなたは配下の武将 五十嵐殿を 299 00:25:53,750 --> 00:25:59,250 大老衆との和議を望む談合のため 内密に送り出されたようじゃが 300 00:26:00,250 --> 00:26:03,083 石堂様はその返答として 301 00:26:03,083 --> 00:26:07,250 五十嵐殿をそなたの元へ戻そうと お考えになったのじゃ 302 00:26:13,708 --> 00:26:15,416 あーあ 303 00:26:24,000 --> 00:26:27,333 はあ へへへへっ 304 00:26:31,208 --> 00:26:32,750 大きな船じゃ 305 00:26:38,833 --> 00:26:40,500 あの紋は? 306 00:26:41,291 --> 00:26:42,625 石堂様 307 00:26:48,291 --> 00:26:49,625 最悪だな 308 00:26:53,333 --> 00:26:55,250 お指図の気配もござりませぬか? 309 00:26:55,500 --> 00:26:58,833 殿は今熟考を重ねておられる 310 00:27:02,083 --> 00:27:06,083 拙者が馬で脱出し せめて 江戸の我が軍に知らせるくらいは 311 00:27:07,500 --> 00:27:10,125 山じゅうに 佐伯の軍勢が見張っておる 312 00:27:11,083 --> 00:27:12,916 お主が江戸に着く前に 313 00:27:14,083 --> 00:27:16,333 我々は皆殺しにされておる 314 00:27:27,541 --> 00:27:28,375 父上 315 00:27:29,541 --> 00:27:31,041 ご決心はつきましたか? 316 00:27:32,666 --> 00:27:35,291 刀を血にぬらして戦いまするか? 317 00:27:38,041 --> 00:27:39,500 ふうう 318 00:27:39,500 --> 00:27:41,958 何ゆえ戦場いくさばに出たことのない者は 319 00:27:43,166 --> 00:27:45,333 総じて戦をしたがるのかのう 320 00:27:49,375 --> 00:27:52,208 これはこれは虎永様 321 00:27:52,958 --> 00:27:56,041 お手間をおかけいたしますこと お許しくださいませ 322 00:27:57,250 --> 00:28:02,000 鞠子様に線香一本分のひと時を お約束いただきまして... 323 00:28:00,291 --> 00:28:02,000 {\an8}帰って 銭勘定でもしておれ 324 00:28:02,791 --> 00:28:04,375 それどころでないのがわからぬか? 325 00:28:04,375 --> 00:28:05,708 いや 長門 326 00:28:07,291 --> 00:28:08,625 約束は約束じゃ 327 00:28:12,083 --> 00:28:17,458 我らに残された時が 線香何本分かは誰にもわからぬ 328 00:28:24,541 --> 00:28:26,958 まことに恐悦至極に存じまする 329 00:28:27,458 --> 00:28:29,458 明日さえ危ういという時に 330 00:28:30,708 --> 00:28:33,416 まだ見ぬ行く末についての 私の一案を 331 00:28:33,416 --> 00:28:35,250 お聞き届けくださいますとは 332 00:28:36,666 --> 00:28:38,041 何が望みじゃ? 333 00:28:39,416 --> 00:28:42,958 うたかたの世に生きるとは どのようなことか 334 00:28:42,958 --> 00:28:45,166 殿はご存じでございましょうか? 335 00:28:45,750 --> 00:28:50,416 それは生涯を捧げ お偉い殿方に お尽くしすることにございます 336 00:28:50,416 --> 00:28:54,166 若さも 精力 知恵 色香も 337 00:28:54,166 --> 00:28:56,125 すべてを捧げ尽くしまする 338 00:28:56,833 --> 00:28:59,458 やがて老いてしなびれば 花は捨てられる 339 00:29:01,916 --> 00:29:04,750 それがわしに 何の関わりがあるのじゃ? 340 00:29:05,500 --> 00:29:08,875 殿は江戸に新しい都を お造りになっておられまする 341 00:29:09,708 --> 00:29:13,250 そこでこれから先の手本を 示すことがお出来になるのでは? 342 00:29:16,375 --> 00:29:17,750 我らの中には 343 00:29:19,083 --> 00:29:21,916 これより先などない者もおるぞ 344 00:29:22,458 --> 00:29:24,666 だとしても どうか江戸で 345 00:29:24,666 --> 00:29:27,916 うたかたの世に殿の庇護ひごを 賜りたいのでございまする 346 00:29:29,291 --> 00:29:31,375 殿がお亡くなりになったその後も 347 00:29:31,375 --> 00:29:32,875 ふんっ 348 00:29:41,791 --> 00:29:44,000 一町分を思い浮かべてくださりませ 349 00:29:44,708 --> 00:29:47,583 その囲いの中に 遊女屋というよりは 350 00:29:47,583 --> 00:29:50,166 私がこの地に造りました 茶屋のような店を 351 00:29:50,166 --> 00:29:52,416 ひとまとめに集めるのでござります 352 00:29:53,625 --> 00:29:55,875 また遊女のためには座を設けます 353 00:29:57,333 --> 00:30:00,416 私共に明るい先行きを お与えくださりませ 354 00:30:01,291 --> 00:30:03,458 幼い頃から稽古を積んだ者が 355 00:30:03,458 --> 00:30:06,791 老いても芸で身を立てられるように してくださりませ 356 00:30:08,000 --> 00:30:09,250 お願いいたしまする 357 00:30:16,666 --> 00:30:18,583 耳新しい話であった 358 00:30:20,083 --> 00:30:21,791 よい気晴らしになったぞ 359 00:30:25,333 --> 00:30:26,375 されど 360 00:30:27,000 --> 00:30:30,291 そのほうの 途方もない願いをかなえるには 361 00:30:30,875 --> 00:30:34,500 わしの先行きは短すぎよう 362 00:30:37,791 --> 00:30:39,708 そうでございましょうか? 363 00:30:43,666 --> 00:30:47,583 殿のご側近方は 殿の最期は近いと 思うておいででしょう 364 00:30:49,083 --> 00:30:51,208 されど私は疑うておりまする 365 00:30:53,416 --> 00:30:55,708 我が宿命は既に定まった 366 00:30:57,958 --> 00:31:00,708 宿命は刀と同じ 367 00:31:00,708 --> 00:31:04,083 それを操れる者にのみ 助けとなります 368 00:31:05,125 --> 00:31:09,208 私は極貧の生まれ 浮かれ女めとして育ちました 369 00:31:11,416 --> 00:31:15,583 かような忌まわしい宿命 呪わぬ者がおりましょうか? 370 00:31:17,583 --> 00:31:21,375 されど辛酸をなめるうちに 野心と手練手管が身に付き 371 00:31:25,208 --> 00:31:29,166 今の私は伊豆で一番の 女長者にござりまする 372 00:31:29,750 --> 00:31:31,125 殿がご苦難に磨かれて 373 00:31:31,125 --> 00:31:34,833 今日こんにちの食わせ者になられましたのと 同じでござります 374 00:31:36,583 --> 00:31:39,041 ただ腑ふに落ちぬのでございます 375 00:31:39,041 --> 00:31:40,166 虎永様が 376 00:31:40,791 --> 00:31:44,166 迫りくる軍勢あらば 間者が知らせぬわけがなかろうに 377 00:31:44,666 --> 00:31:48,333 手勢を弱らせたまま放っておいて 弟君を迎えるとは 378 00:31:50,583 --> 00:31:53,208 何ゆえ かようにうかつな過ちを? 379 00:31:55,708 --> 00:31:58,166 わしが望んで そうしておると思うのか? 380 00:32:00,041 --> 00:32:03,166 我が軍勢を壊滅させた あの地震の後で 381 00:32:05,875 --> 00:32:07,666 おわび申し上げまする 殿 382 00:32:09,041 --> 00:32:11,750 私の思い違いだったので ございましょう 383 00:32:14,416 --> 00:32:16,916 私なぞに何がわかりましょう 384 00:32:18,250 --> 00:32:21,375 こんな遊女のなれの果ての婆ばばに 385 00:32:23,541 --> 00:32:26,708 線香も もうとっくに 燃え尽きました 386 00:32:33,458 --> 00:32:35,000 いい湯加減じゃ 387 00:32:35,625 --> 00:32:37,458 - よし 入るか - おう 388 00:32:42,416 --> 00:32:43,791 はああ 389 00:32:48,791 --> 00:32:50,083 ははははっ 390 00:32:50,500 --> 00:32:53,958 皆でつかるには 湯が足りぬようじゃな 391 00:32:53,958 --> 00:32:55,041 ああ? 392 00:33:22,833 --> 00:33:23,916 ふああ 393 00:33:26,625 --> 00:33:27,791 はあ 394 00:33:28,625 --> 00:33:30,041 こりゃいいや 395 00:33:30,666 --> 00:33:32,208 はははははっ 396 00:33:34,416 --> 00:33:35,458 虎永様に 397 00:33:35,458 --> 00:33:38,166 必ず目論見もくろみがあると 信じておられるのは 398 00:33:38,666 --> 00:33:40,333 何ゆえにござりまするか 399 00:33:40,333 --> 00:33:41,791 ほかに道があるか? 400 00:33:41,791 --> 00:33:43,333 降伏か? 401 00:33:43,333 --> 00:33:46,833 降伏の術すべなど父上は知る由もないわ 402 00:33:47,625 --> 00:33:51,791 時折あの頃の暮らしに 戻りとうなりまする 403 00:33:51,791 --> 00:33:54,541 あの南蛮船が 来る前の頃でござります 404 00:33:55,041 --> 00:33:58,583 ここがただのさびれた 貧しい漁村にすぎなんだ頃か 405 00:33:58,583 --> 00:33:59,666 ふっ 406 00:34:00,916 --> 00:34:01,875 仰せのとおり 407 00:34:04,833 --> 00:34:07,916 されど村は 平穏な暮らしぶりにございました 408 00:34:08,166 --> 00:34:12,333 あれからあまりに多くのものが 取り上げられてしまいました 409 00:34:12,333 --> 00:34:14,333 かつての良きものは皆 410 00:34:14,333 --> 00:34:18,250 我らがより多くを求めたがゆえに 奪われてしもうたのでござる 411 00:34:18,250 --> 00:34:20,416 我らに入り用なのは策のみじゃ 412 00:34:21,000 --> 00:34:23,625 ふぬけ侍どもを 片っ端からたたき斬ってくれようぞ 413 00:34:24,208 --> 00:34:25,541 ふぬけ侍か 414 00:34:28,375 --> 00:34:30,250 お主の悪たれ口は 415 00:34:31,291 --> 00:34:34,000 刀と同じでなまくらじゃ 416 00:34:34,791 --> 00:34:36,750 此度はわしも思い悩んでおる 417 00:34:37,416 --> 00:34:40,000 お主の父とわしは不仲とはいえ 418 00:34:41,583 --> 00:34:44,500 肉親であることに 変わりはないゆえな 419 00:34:44,500 --> 00:34:47,458 ご自分のされたことを 恥とは思われませぬか? 420 00:34:47,958 --> 00:34:51,125 名を残すためとあらば 恥も外聞もあるものか 421 00:34:51,916 --> 00:34:53,458 己はどうじゃ 長門 422 00:34:55,958 --> 00:34:58,041 鶏のように殺され 423 00:34:58,958 --> 00:35:01,666 名も立てぬうちに 忘れ去られるのじゃぞ 424 00:35:03,375 --> 00:35:07,208 それが我が宿命ならば 見事に死んでみせまする 425 00:35:08,625 --> 00:35:10,458 何が見事か 426 00:35:11,791 --> 00:35:13,291 死とは—— 427 00:35:15,833 --> 00:35:18,583 森の中の孤独な道にすぎぬ 428 00:35:22,958 --> 00:35:23,875 はあっ 429 00:35:37,083 --> 00:35:38,458 これはもうよいぞ 430 00:35:40,166 --> 00:35:41,000 おい! 431 00:35:43,416 --> 00:35:45,708 いいぞ こちらじゃ 432 00:35:49,500 --> 00:35:52,375 自分が釜ゆでになれば良かったと 思うておるのじゃろう 433 00:35:52,375 --> 00:35:55,041 そのほうが早く死ねたのにとな はっ! 434 00:35:56,833 --> 00:35:59,666 わしはな この宿命に縛られておる 435 00:36:00,583 --> 00:36:03,125 どれほど死を避けても 次の死が待っておる 436 00:36:04,000 --> 00:36:07,333 一度目は崖の上 次いで大坂 そして此度じゃ 437 00:36:09,958 --> 00:36:12,125 なぜお前に話しておるのじゃろうな 438 00:36:12,791 --> 00:36:15,500 風に向かって 小便をしているようなものじゃ 439 00:36:19,083 --> 00:36:20,875 どうせ使い方も知らんくせに 440 00:36:24,333 --> 00:36:25,416 あはっ 441 00:36:25,416 --> 00:36:27,208 抜け 早くしろ 442 00:36:28,208 --> 00:36:29,000 ははっ 443 00:36:29,000 --> 00:36:29,833 抜け 444 00:36:29,833 --> 00:36:31,666 そうくるか 445 00:36:37,333 --> 00:36:38,583 正しく構えよ 446 00:36:40,250 --> 00:36:41,416 両手だな 447 00:36:42,000 --> 00:36:44,500 ふんっ もう一度じゃ 拾え 448 00:36:45,333 --> 00:36:46,458 また? 449 00:36:46,458 --> 00:36:50,166 俺はただの船乗りだ 刀の握り方なんか知らない 450 00:36:50,166 --> 00:36:52,625 貴様が何を 話しておるのか わしにはわからん 451 00:36:52,875 --> 00:36:54,000 早く拾え! 452 00:36:54,583 --> 00:36:55,583 うむ 453 00:36:56,166 --> 00:37:00,083 ゆっくりと刀を拾うぞ 454 00:37:01,166 --> 00:37:02,958 - あっ あっ - ふんっ 455 00:37:02,958 --> 00:37:04,625 はははははっ 456 00:37:05,166 --> 00:37:06,583 はっ! ははっ 457 00:37:06,583 --> 00:37:07,875 - ふんっ - うわっ 458 00:37:07,875 --> 00:37:09,125 何を笑っておる? 459 00:37:09,125 --> 00:37:10,666 うっ はあ 460 00:37:12,250 --> 00:37:13,083 ふんっ 461 00:37:13,416 --> 00:37:14,750 何をするつもりじゃ! 462 00:37:28,750 --> 00:37:30,250 やってみろ 463 00:37:32,208 --> 00:37:33,541 いい機会だ 464 00:37:53,333 --> 00:37:56,083 わしがいなかったら 死んでおったぞ 間抜けめ 465 00:38:01,916 --> 00:38:04,458 ふっ はっ! ああっ 466 00:38:09,875 --> 00:38:13,250 そなたはけがで まだ なぎなたを振るのは難儀であろう 467 00:38:14,166 --> 00:38:16,708 戦になるのなら 私も戦いまする 468 00:38:17,416 --> 00:38:19,583 ようやく戦になるのはよいことじゃ 469 00:38:20,666 --> 00:38:23,500 先に散った者たちへの 供養にもなるであろう 470 00:38:23,833 --> 00:38:25,833 藤殿の亡き夫のようにな 471 00:38:27,791 --> 00:38:31,458 あの日 忠義殿が 父上のためにしたことをの 472 00:38:34,916 --> 00:38:38,875 本来ならば拙者が石堂の非礼を とがめるべきでござった 473 00:38:40,875 --> 00:38:42,833 拙者にもっと度胸があれば 474 00:38:43,083 --> 00:38:46,458 忠義殿も藤殿の息子も 475 00:38:48,125 --> 00:38:49,625 まだ生きておったものを 476 00:38:54,375 --> 00:38:59,291 我らはできる時に できることをいたすもの 477 00:39:01,291 --> 00:39:04,458 あとはそれで足りるように 祈ることしかできませぬ 478 00:39:12,958 --> 00:39:17,041 岡崎の領地は すべて孫たちが成人した折に 479 00:39:17,041 --> 00:39:18,666 継がせるように 480 00:39:22,125 --> 00:39:23,125 それから 481 00:39:24,208 --> 00:39:25,041 お吟じゃ 482 00:39:26,625 --> 00:39:29,083 江戸に二町の土地を用意し 483 00:39:30,458 --> 00:39:32,916 お吟の望むように使わせよ 484 00:39:39,500 --> 00:39:42,500 殿 戸田広勝殿でございまする 485 00:39:59,375 --> 00:40:01,750 殿 おそれながら 486 00:40:04,750 --> 00:40:07,083 殿に申し上げたき儀がございまする 487 00:40:09,791 --> 00:40:12,000 妻の同席もお許し願いませぬか 488 00:40:23,750 --> 00:40:25,083 我らが死ぬ前に 489 00:40:26,833 --> 00:40:29,250 拙者に蛮人の首を 取らせてくださりませ 490 00:40:35,000 --> 00:40:36,208 何ゆえじゃ? 491 00:40:37,166 --> 00:40:41,458 あの蛮人が殿に付き従うておるのは ただ己の利を求めるがゆえのこと 492 00:40:42,541 --> 00:40:43,375 また 493 00:40:45,041 --> 00:40:47,541 あやつが妻に向ける目つきが 気に入りませぬ 494 00:40:53,250 --> 00:40:58,041 安針がそのほうの妻の心を 盗もうとしておると申すか? 495 00:40:58,375 --> 00:40:59,291 いかにも 496 00:40:59,291 --> 00:41:01,291 鞠子殿がそれを許しておると 497 00:41:02,208 --> 00:41:03,583 そう申すのか? 498 00:41:04,875 --> 00:41:09,708 蛮人の首をとは申しましたが 妻の首をとは申しておりませぬ 499 00:41:09,708 --> 00:41:11,291 わしの問いに答えよ! 500 00:41:11,291 --> 00:41:13,125 そのとおりであると思うなら 501 00:41:15,583 --> 00:41:19,500 妻の首も即座にはねるのが 筋であろう 502 00:41:22,000 --> 00:41:23,375 申すことはあるか? 503 00:41:27,208 --> 00:41:28,416 私の命は 504 00:41:31,458 --> 00:41:34,000 夫の思うがままでござりまする 505 00:41:39,625 --> 00:41:40,583 拙者は 506 00:41:43,500 --> 00:41:45,625 妻に過ちがあったとは 思うておりませぬ 507 00:41:46,208 --> 00:41:48,291 ならば安針も責められまい 508 00:41:52,000 --> 00:41:53,500 どう始末をつける? 509 00:41:56,833 --> 00:42:00,333 つまらぬことを申し上げました 510 00:42:00,333 --> 00:42:02,333 何とぞご容赦を 511 00:42:22,583 --> 00:42:25,291 そなたはどういう立場におるのじゃ 512 00:42:25,916 --> 00:42:28,041 私は殿にお仕えしておりまする 513 00:42:28,041 --> 00:42:30,250 そなたは決まってそう申すが 514 00:42:31,375 --> 00:42:32,666 あの蛮人が絡むと 515 00:42:33,750 --> 00:42:36,583 いつも物事の順序が あいまいになるようじゃ 516 00:42:37,125 --> 00:42:39,000 そのようなことはござりませぬ 517 00:42:38,416 --> 00:42:40,875 {\an8}裏と表を使い分けるのは もうよさぬか! 518 00:42:41,375 --> 00:42:42,916 裏か表かじゃ! 519 00:42:43,416 --> 00:42:46,375 父の敵と戦うわしの側におるのか 520 00:42:47,791 --> 00:42:49,833 それとも蛮人の側におるのか? 521 00:42:51,583 --> 00:42:53,083 どちらかを選ぶのじゃ! 522 00:42:54,291 --> 00:42:55,125 殿 523 00:42:55,916 --> 00:42:56,916 私は 524 00:42:59,041 --> 00:43:02,250 殿に心からの忠義を 尽くして参りました 525 00:43:05,458 --> 00:43:06,541 されどどうか... 526 00:43:09,916 --> 00:43:12,291 死を待ちながら時を過ごすのは 527 00:43:12,708 --> 00:43:15,958 苦しみの川で溺れ続けることに 似ておりまする 528 00:43:18,083 --> 00:43:19,250 今宵 529 00:43:20,083 --> 00:43:22,666 自害することをお許しくださりませ 530 00:43:28,041 --> 00:43:30,000 この業の深い人生から 531 00:43:33,375 --> 00:43:35,833 私を解き放ってくださりませ 532 00:43:49,250 --> 00:43:50,250 ふんっ! 533 00:43:50,250 --> 00:43:52,583 あっ ああ 534 00:44:33,458 --> 00:44:34,791 ゆうべ弟が 535 00:44:35,708 --> 00:44:37,583 たわけたことを言い出した時 536 00:44:38,125 --> 00:44:39,791 何ゆえ止めなんだ? 537 00:44:40,333 --> 00:44:43,916 殿への侮辱 見過ごしたこと 申し訳ござらん 538 00:44:44,500 --> 00:44:46,333 違う その話ではないわ 539 00:44:48,375 --> 00:44:50,875 敵将の首をはねた話よ 540 00:44:52,291 --> 00:44:53,291 溝口の 541 00:44:53,291 --> 00:44:54,375 おお 542 00:44:54,750 --> 00:44:58,333 馬鹿らしい 一刀のもとに斬り落としたじゃと? 543 00:45:00,416 --> 00:45:01,916 お主も見ておったであろう 544 00:45:02,958 --> 00:45:06,083 九度くたびでございましたぞ 首が落ちたのは 545 00:45:08,833 --> 00:45:11,166 むごいことをなされましたな 546 00:45:11,791 --> 00:45:14,708 こわっぱに介錯を頼むほうが 愚かなのじゃ 547 00:45:14,708 --> 00:45:16,708 はははははっ 548 00:45:19,166 --> 00:45:20,000 おう 549 00:46:38,416 --> 00:46:39,250 では 550 00:46:40,333 --> 00:46:41,916 正式なご返答を 551 00:46:47,958 --> 00:46:48,916 佐伯殿 552 00:46:51,250 --> 00:46:54,416 わしはそのほうに降伏し 553 00:46:55,708 --> 00:46:58,375 大坂に参ることを承知いたす 554 00:46:59,583 --> 00:47:04,833 そこで大老衆 ひいては石堂殿のご意向に従おう 555 00:47:05,625 --> 00:47:07,250 降伏されました 556 00:47:10,583 --> 00:47:11,916 おそれながら 虎永様... 557 00:47:11,916 --> 00:47:12,750 口を挟むでない 558 00:47:12,750 --> 00:47:13,500 されど父上... 559 00:47:13,500 --> 00:47:14,916 わしの腹はもう決まっておる! 560 00:47:15,541 --> 00:47:20,041 たとえ逆賊が巣食うておろうとも 日の本を分断するなど 561 00:47:21,291 --> 00:47:24,000 誰であろうと いたしてはならんことじゃ 562 00:47:27,041 --> 00:47:28,291 紅天は 563 00:47:30,583 --> 00:47:32,000 誤りであった 564 00:47:39,125 --> 00:47:41,708 うはあ ふうっ 565 00:47:51,833 --> 00:47:53,125 藪重様! 566 00:47:56,416 --> 00:47:57,708 長門様 567 00:48:00,333 --> 00:48:01,541 ふんっ 568 00:48:10,041 --> 00:48:11,791 ご立派なお侍様方よ 569 00:48:12,708 --> 00:48:14,625 大した策士だ 570 00:48:16,708 --> 00:48:20,625 だが忠臣をじわじわと 死に追いやるんだな 571 00:48:23,166 --> 00:48:24,333 みな死ぬ 572 00:48:28,333 --> 00:48:30,208 紅天なぞクソくらえ 573 00:48:38,208 --> 00:48:40,083 大老衆には文ふみで知らせる 574 00:48:41,750 --> 00:48:45,458 明日 兄上は大坂に向けて立たれよ 575 00:48:46,000 --> 00:48:48,208 城門の前まで それがしがお送りする 576 00:48:49,833 --> 00:48:50,750 本日より 577 00:48:52,125 --> 00:48:54,333 どこへも勝手に参られぬように 578 00:49:00,250 --> 00:49:04,000 もはや兄上は何者でもございませぬ 579 00:49:19,208 --> 00:49:24,416 此度のことが片付けば お前を江戸の我が城に連れていく 580 00:49:24,875 --> 00:49:27,833 お前が住まう 立派な屋敷も建ててやろう 581 00:49:29,791 --> 00:49:32,041 我が7番目の側室じゃ 582 00:49:33,291 --> 00:49:36,625 運の良さは一番じゃがのう 583 00:49:37,125 --> 00:49:38,833 うっ ううん 584 00:49:57,250 --> 00:49:58,083 殿 585 00:50:00,541 --> 00:50:02,375 私たちのまぐわいを 586 00:50:02,375 --> 00:50:05,916 高めさせていただいても よろしゅうございまするか? 587 00:50:10,458 --> 00:50:14,458 殿の喜びを高める道具がございます 588 00:50:18,416 --> 00:50:19,291 取って参れ 589 00:50:35,541 --> 00:50:36,541 ううっ 590 00:51:04,916 --> 00:51:06,958 うっ ぐう 591 00:51:13,791 --> 00:51:14,791 ふんっ 592 00:51:17,416 --> 00:51:20,125 ようやく男になろうと思うたか 593 00:51:22,291 --> 00:51:23,166 殿! 594 00:51:24,666 --> 00:51:26,166 うわあ! うっ! 595 00:51:39,250 --> 00:51:41,250 ううっ 596 00:51:56,041 --> 00:51:57,041 うわあ! 597 00:51:59,500 --> 00:52:01,541 ぐっ ぐはっ 598 00:52:04,458 --> 00:52:05,291 ん? 599 00:52:05,291 --> 00:52:06,916 ぐっ ごぼっ 600 00:52:15,458 --> 00:52:18,041 あ... ああ... 601 00:52:24,416 --> 00:52:26,000 この死にざまの 602 00:52:27,666 --> 00:52:29,041 どこが見事じゃ 603 00:52:29,583 --> 00:52:31,583 あああ...