1
00:00:03,055 --> 00:00:06,101
1944年10月 ドイツ西部
2
00:00:08,077 --> 00:00:10,064
1人の米軍中尉が
3
00:00:10,064 --> 00:00:14,044
バンカーに戻るドイツ兵を 監視している
4
00:00:14,044 --> 00:00:18,132
ブラウンは気づかれぬように
敵に忍び寄った
5
00:00:22,116 --> 00:00:26,116
そして信管を作動させた 爆薬を投げ込む
6
00:00:27,070 --> 00:00:29,083
敵兵は何もできない
7
00:00:30,133 --> 00:00:33,054
1944年6月6日
8
00:00:33,054 --> 00:00:36,142
連合軍が ノルマンディーに上陸
9
00:00:37,138 --> 00:00:40,047
西からの進攻が始まる
10
00:00:42,109 --> 00:00:48,047
対するナチスも 命懸けの防戦を試みる
11
00:00:53,102 --> 00:00:55,061
Dデイは死闘だった
12
00:00:57,086 --> 00:00:59,115
負けられない戦いが続く
13
00:01:14,058 --> 00:01:17,100
{\an8}Dデイから124日
14
00:01:17,100 --> 00:01:18,113
1944年10月8日 ドイツ アーヘン近郊
15
00:01:21,055 --> 00:01:26,122
米陸軍第18歩兵連隊の兵士が 煙の中 歩を進めている
16
00:01:29,097 --> 00:01:33,114
独軍に発見される前に 素早く静かに
17
00:01:33,114 --> 00:01:35,140
攻撃位置を目指す
18
00:01:40,057 --> 00:01:44,070
C中隊を率いる ボビー・ブラウン大尉は41歳
19
00:01:44,070 --> 00:01:49,066
上官を含め 将校の中で 最年長の部類に入る
20
00:01:49,066 --> 00:01:52,058
軍に人生を捧げてきた
21
00:01:53,116 --> 00:01:56,058
家族の負担を減らすため
22
00:01:56,058 --> 00:02:01,071
ブラウンは若くして
陸軍への入隊を志願した
23
00:02:01,071 --> 00:02:05,093
{\an8}体が大きかった彼は
18歳だと申告したが
24
00:02:05,093 --> 00:02:06,105
ロバート・バウマー
「Aachen」著者
25
00:02:06,105 --> 00:02:07,059
{\an8}実際は15歳だった
26
00:02:07,059 --> 00:02:11,114
でも体格が良かったから
入隊が許された
27
00:02:13,047 --> 00:02:16,098
あらゆる歩兵の武器で 訓練を重ね
28
00:02:16,098 --> 00:02:20,057
リーダー階級に のし上がった
29
00:02:20,057 --> 00:02:24,053
所属は Dデイに上陸した 第1歩兵師団だ
30
00:02:24,053 --> 00:02:28,141
8月には C中隊に 新隊長が必要になった
31
00:02:29,066 --> 00:02:33,120
士官学校の卒業生を含め
多数の候補がいた中―
32
00:02:34,091 --> 00:02:38,104
勝負強さが評価され
ブラウンが選ばれた
33
00:02:38,104 --> 00:02:42,059
彼は時機を読む勘が
非常に鋭い
34
00:02:42,059 --> 00:02:44,076
信頼も厚かった
35
00:02:48,084 --> 00:02:51,076
戦いに備えるブラウン中隊
36
00:02:56,052 --> 00:03:00,069
突然の風に周囲の煙が さらわれてしまう
37
00:03:04,078 --> 00:03:06,094
隊の姿が丸見えだ
38
00:03:12,120 --> 00:03:16,104
すぐさま独軍の標的となった
39
00:03:18,108 --> 00:03:19,117
来るぞ!
40
00:03:22,117 --> 00:03:23,117
かがめ!
41
00:03:34,056 --> 00:03:35,043
進め!
42
00:03:36,131 --> 00:03:37,123
立て
43
00:03:45,082 --> 00:03:47,124
夏の間に進攻は急速に進んだ
44
00:03:47,124 --> 00:03:51,099
連合軍総司令官の アイゼンハワー元帥は
45
00:03:51,099 --> 00:03:55,116
終戦の決定打となる 次の目標を定めた
46
00:03:55,116 --> 00:03:57,079
ルール渓谷だ
47
00:03:59,046 --> 00:04:04,125
{\an8}当時の連合軍にとって
最も押さえたい地域だ
48
00:04:05,063 --> 00:04:07,092
ドイツの工業の中心地で
49
00:04:07,092 --> 00:04:12,130
主要な製鋼所や戦車工場
武器工場が集まっていた
50
00:04:14,135 --> 00:04:17,085
フランス
51
00:04:17,085 --> 00:04:19,089
Dデイの上陸後 1944年9月には
52
00:04:19,089 --> 00:04:20,123
ベルギー
53
00:04:20,123 --> 00:04:24,073
連合軍の前線は ドイツの国境に到達した
54
00:04:24,073 --> 00:04:25,073
{\an8}ドイツ
55
00:04:25,073 --> 00:04:28,086
ルール渓谷への道を 確保するため
56
00:04:28,086 --> 00:04:30,065
{\an8}ルール渓谷
57
00:04:30,065 --> 00:04:35,083
アイゼンハワーは4部隊に 古都アーヘンの攻落を命じる
58
00:04:36,095 --> 00:04:38,133
両軍 譲れない戦いだ
59
00:04:39,141 --> 00:04:43,108
アイゼンハワーの夢は
ヒトラーの悪夢
60
00:04:44,079 --> 00:04:46,125
{\an8}米軍は
アーヘンを制すれば
61
00:04:46,125 --> 00:04:50,059
ペーター・リーブ
軍事史学者
62
00:04:50,059 --> 00:04:52,101
{\an8}ドイツ領土内で1つ目の
主要都市攻落が かなう
63
00:04:54,139 --> 00:04:57,106
独軍からの迎撃を受け
64
00:04:57,106 --> 00:05:02,044
ブラウンと隊員は 丘のふもとに集結する
65
00:05:04,106 --> 00:05:08,077
難しい任務なのは
皆 承知していた
66
00:05:11,065 --> 00:05:17,074
“十字架の丘”には至る所に
独軍のトーチカがあった
67
00:05:22,058 --> 00:05:28,054
行く手には激しい銃撃が
待っているのは明らかだった
68
00:05:35,055 --> 00:05:37,047
ブラウンの目的は明確だ
69
00:05:37,047 --> 00:05:40,085
丘にいる敵の武力を制圧し
70
00:05:40,085 --> 00:05:42,123
敵からの反撃に備える
71
00:05:43,052 --> 00:05:46,123
まずは直近のバンカーへの 道筋を見定め
72
00:05:46,123 --> 00:05:50,082
空に味方の戦闘機が いないか探す
73
00:05:50,082 --> 00:05:54,070
ブラウンが援護を
期待したのは
74
00:05:54,070 --> 00:05:58,074
P-47サンダーボルトの
飛行隊だ
75
00:05:58,074 --> 00:06:00,066
8機あるはずだった
76
00:06:00,066 --> 00:06:04,075
彼は空からの攻撃を
当てにしてきた
77
00:06:04,075 --> 00:06:09,138
実は もっと早くに連絡機が 丘に向かっていたのだが
78
00:06:10,046 --> 00:06:13,134
攻撃を受け
丘まで到達できなかった
79
00:06:18,139 --> 00:06:21,051
待っている時間はない
80
00:06:23,068 --> 00:06:24,081
今だ 進め!
81
00:06:27,065 --> 00:06:32,078
ブラウンらが立ち上がると 敵の一斉射撃が始まった
82
00:06:36,082 --> 00:06:41,087
彼らが進もうとした道は
敵の攻撃態勢が万全で
83
00:06:41,087 --> 00:06:44,133
攻撃する間もなく
猛攻撃を受けた
84
00:06:45,104 --> 00:06:49,075
84門もの火砲から
発せられる砲弾が
85
00:06:50,046 --> 00:06:52,109
ブラウンの隊に降り注いだ
86
00:06:54,096 --> 00:06:58,118
動けば 機関銃に ピンポイントで狙われる
87
00:07:16,136 --> 00:07:20,095
連合軍側も援護の砲弾を放つ
88
00:07:26,091 --> 00:07:28,133
だが 敵の攻撃は続く
89
00:07:33,092 --> 00:07:36,105
ここは“十字架の丘”と
呼ばれる地で
90
00:07:36,105 --> 00:07:39,126
頂上の十字架が名の由来だ
91
00:07:39,126 --> 00:07:43,093
アーヘンを 北東から守っており
92
00:07:43,093 --> 00:07:47,102
その標高から239高地とも 呼ばれる
93
00:07:48,043 --> 00:07:51,048
トーチカや バンカーだらけの丘だ
94
00:07:53,044 --> 00:07:55,052
設備としては やや古い
95
00:07:55,052 --> 00:07:59,082
でも丘にあるバンカーは
ドイツ兵にとって
96
00:07:59,082 --> 00:08:03,087
敵を高地から狙える
絶好の拠点だった
97
00:08:19,092 --> 00:08:24,043
隊員の動きが封じられる中 ブラウン大尉は
98
00:08:24,043 --> 00:08:28,077
通信士と伝達係を含む 指令部隊と動いた
99
00:08:28,077 --> 00:08:32,048
隊員には
こう たたき込んでいた
100
00:08:32,048 --> 00:08:35,077
“1人でも動けるなら
その者が―”
101
00:08:35,077 --> 00:08:39,099
“動けない者の仕事を
カバーしろ”と
102
00:08:47,116 --> 00:08:52,121
この時 自分しか動けないと 分かっていたブラウンは
103
00:08:52,121 --> 00:08:54,108
行動を起こした
104
00:08:59,076 --> 00:09:04,134
ブラウンと指令部隊は 危険を覚悟で走り出す
105
00:09:08,047 --> 00:09:10,043
彼らは何とかして
106
00:09:10,043 --> 00:09:15,115
丘のふもとにあった
大きなくぼみに飛び込んだ
107
00:09:15,115 --> 00:09:21,094
ブラウンが知恵を働かせて
前日の夜に掘っておいた穴だ
108
00:09:21,094 --> 00:09:26,091
掘り出した土は
撤去しておいたから
109
00:09:26,091 --> 00:09:30,058
夜が明けても
敵は気づかなかった
110
00:09:40,059 --> 00:09:44,051
ここなら敵からの攻撃を 受けにくい
111
00:09:59,086 --> 00:10:02,082
通信士が各小隊長に伝達する
112
00:10:04,132 --> 00:10:06,120
いい知らせではない
113
00:10:08,070 --> 00:10:10,070
小隊長の1人が負傷
114
00:10:10,070 --> 00:10:13,116
突撃小隊は 身動きが取れぬままだ
115
00:10:14,091 --> 00:10:16,067
双眼鏡を使うぞ
116
00:10:18,050 --> 00:10:22,088
丘を見上げ バンカーの銃撃を観察した
117
00:10:24,134 --> 00:10:27,118
全体の状況を把握するためだ
118
00:10:34,106 --> 00:10:36,123
通信士は尋ねた
119
00:10:36,123 --> 00:10:39,073
“工兵から行かせますか?”
120
00:10:39,073 --> 00:10:43,103
“自殺行為はさせない”と
ブラウンは答える
121
00:10:47,070 --> 00:10:50,099
ブラウンは瞬時に決断した
122
00:10:51,049 --> 00:10:54,050
自らバンカーを破壊する
123
00:11:02,138 --> 00:11:07,118
米軍のブラウン大尉は 計画を練り始める
124
00:11:08,088 --> 00:11:10,122
その時 彼は決断した
125
00:11:11,060 --> 00:11:15,077
{\an8}自分の教えを実践して
自ら動くことで
126
00:11:15,077 --> 00:11:16,102
ロバート・バウマー
「Aachen」著者
127
00:11:17,094 --> 00:11:20,048
そして通信士に言った
128
00:11:20,048 --> 00:11:23,090
“柄付き爆薬と
梱包爆薬が要る”
129
00:11:23,090 --> 00:11:25,061
通信士は耳を疑う
130
00:11:25,061 --> 00:11:26,124
“何と?”
131
00:11:28,065 --> 00:11:31,099
ブラウンは火力が必要だった
132
00:11:31,099 --> 00:11:34,116
“爆破”が答えだと
信じていた
133
00:11:39,112 --> 00:11:45,096
“十字架の丘”のバンカーは
ジークフリート線の一部だ
134
00:11:45,096 --> 00:11:48,126
ジークフリート線は
独軍が1930年代に
135
00:11:48,126 --> 00:11:51,118
二面戦争に備えて
造った要塞だ
136
00:11:52,047 --> 00:11:54,110
その意義は
1939年に証明された
137
00:11:54,110 --> 00:11:58,127
{\an8}独軍は9月に
ポーランドを制圧する
138
00:11:59,094 --> 00:12:04,140
その時 西の英仏軍に 兵力を割かずに済んだのは
139
00:12:05,048 --> 00:12:09,049
ジークフリート線が
壁となっていたからだ
140
00:12:09,049 --> 00:12:14,053
いわゆる“兵力の節用”の
実践に貢献したわけだ
141
00:12:14,053 --> 00:12:18,095
アーヘン近郊の防衛が 重視されていたことは
142
00:12:18,095 --> 00:12:21,054
その造りからも分かる
143
00:12:21,054 --> 00:12:25,130
アーヘン付近の防衛線は
他の地域と比べ
144
00:12:25,130 --> 00:12:29,092
とりわけ厚く築かれている
145
00:12:29,092 --> 00:12:32,093
戦略的に重要だからだ
146
00:12:32,093 --> 00:12:37,089
アーヘンのすぐ南には
やや平坦な地が広がっている
147
00:12:37,089 --> 00:12:41,060
ルール川やライン川を
目指す戦車に
148
00:12:41,060 --> 00:12:44,044
突破されると困るわけだ
149
00:12:45,098 --> 00:12:50,074
景色に溶け込むように 作られたバンカーは
150
00:12:50,074 --> 00:12:56,091
銃撃に必要最小限な大きさの 開口部が設けられている
151
00:12:56,091 --> 00:13:03,100
独軍のバンカー
152
00:13:03,100 --> 00:13:04,075
{\an8}大きいと幅15メートル
地下7メートルを超えた
153
00:13:05,092 --> 00:13:08,059
{\an8}作りは
“基準B”に準じていた
154
00:13:08,059 --> 00:13:13,101
{\an8}壁は厚さ2メートルの
鉄筋コンクリート製だ
155
00:13:13,101 --> 00:13:16,105
{\an8}それだけ厚い壁があれば
156
00:13:16,105 --> 00:13:20,097
{\an8}203ミリの砲弾に
耐えられる
157
00:13:20,097 --> 00:13:22,135
1000ポンド爆弾にもだ
158
00:13:23,073 --> 00:13:27,048
非常に頑丈な
防衛構造物と言える
159
00:13:28,048 --> 00:13:31,124
その構造物を 彼が破壊せねばならない
160
00:13:32,086 --> 00:13:35,120
ブラウンも手探り状態だった
161
00:13:36,062 --> 00:13:40,062
そんな時 P-47が
残したと思われる―
162
00:13:40,062 --> 00:13:42,079
爆弾穴が目に入った
163
00:13:42,079 --> 00:13:45,079
目指すトーチカと
今いる場所の
164
00:13:45,079 --> 00:13:48,113
ちょうど中間辺りに穴はある
165
00:13:52,067 --> 00:13:56,068
ブラウンは第2小隊長の マーベインに
166
00:13:56,068 --> 00:13:59,047
爆薬を寄こすよう言った
167
00:14:00,106 --> 00:14:06,131
マーベインがいた地点は
激しい攻撃が続いていたので
168
00:14:07,069 --> 00:14:10,069
期待に胸が膨らんだはずだ
169
00:14:12,053 --> 00:14:14,120
彼は梱包爆薬を投げ渡した
170
00:14:20,083 --> 00:14:23,141
梱包爆薬は
加工した爆破薬の一種だ
171
00:14:24,050 --> 00:14:28,046
手頃な大きさで
カバンなどに入れて運んだ
172
00:14:28,046 --> 00:14:31,096
主に障害物の爆破に使う
173
00:14:31,096 --> 00:14:34,126
戦車やバンカーの
破壊にも有効だ
174
00:14:35,113 --> 00:14:41,076
この時の梱包爆薬の中身は TNT爆薬 約6.8キロ分
175
00:14:41,076 --> 00:14:44,064
作動後 3秒で爆発する
176
00:14:45,060 --> 00:14:50,106
ブラウンは爆薬を肩に掛けて くぼみを出発した
177
00:14:51,111 --> 00:14:54,107
大尉階級の者とは 思えぬ行動だ
178
00:14:56,061 --> 00:15:00,057
本来ならば
中隊を率いる隊長として
179
00:15:00,057 --> 00:15:03,104
大隊長と交信する責任がある
180
00:15:03,104 --> 00:15:07,142
“待機”や“撤退”などの
指示を受ける―
181
00:15:08,050 --> 00:15:09,142
大事な役割だ
182
00:15:10,100 --> 00:15:16,113
大尉が戦場で矢面に立つのは
極めて異例のことだった
183
00:15:17,092 --> 00:15:21,139
ブラウンはバンカーに 少しずつ迫っていく
184
00:15:31,065 --> 00:15:35,065
銃撃を避けるため
ひらすら腹ばいで進んだ
185
00:15:35,065 --> 00:15:37,115
頭を上げたら撃たれる
186
00:15:41,066 --> 00:15:46,058
敵に関する手掛かりは 開口部から見える銃身のみ
187
00:15:47,141 --> 00:15:53,134
バンカーの中にいたのは 敵の擲弾兵連隊の兵士だ
188
00:15:54,050 --> 00:15:57,046
{\an8}要は歩兵連隊のことだ
189
00:15:57,046 --> 00:15:59,105
ペーター・リーブ
軍事史学者
190
00:15:59,105 --> 00:15:59,126
{\an8}1942年に
独軍は歩兵部隊を
191
00:15:59,126 --> 00:16:03,080
{\an8}擲弾兵連隊という名に
改めていた
192
00:16:03,080 --> 00:16:08,127
18~19世紀に勢力を誇った
プロイセン帝国式の呼び方だ
193
00:16:10,048 --> 00:16:15,048
米軍のアーヘン接近を受けて 急いで配備された―
194
00:16:15,048 --> 00:16:18,053
厳選された兵士たちだ
195
00:16:18,053 --> 00:16:21,128
旧式のバンカーにも
かかわらず
196
00:16:21,128 --> 00:16:25,053
ドイツ兵には安心感があった
197
00:16:25,053 --> 00:16:31,075
独軍が残した資料によれば
バンカーの存在は
198
00:16:31,075 --> 00:16:34,117
兵士の士気高揚にも
役立っていた
199
00:16:34,117 --> 00:16:39,097
彼らには初めての
明確な防衛線だったからだ
200
00:16:41,101 --> 00:16:46,043
敵連隊の指揮官は エッガーストルファー中佐だ
201
00:16:46,043 --> 00:16:50,068
エッガーストルファー中佐は
35歳の将校で
202
00:16:50,068 --> 00:16:56,115
第2次大戦中に下士官から
スピード昇級を果たした男だ
203
00:16:56,115 --> 00:16:58,119
東部前線の古参兵で
204
00:16:59,044 --> 00:17:03,045
特例的な昇級を認められ
中佐になった
205
00:17:03,045 --> 00:17:08,091
彼の戦場での功績が
いかに大きかったかが分かる
206
00:17:09,104 --> 00:17:15,058
彼はアーヘンを死守するよう 命令を受けていた
207
00:17:17,079 --> 00:17:21,076
アーヘンは歴史的にも 意義の大きい都市だ
208
00:17:22,080 --> 00:17:28,056
神聖ローマ帝国の戴冠式が 700年もの間 ここで行われた
209
00:17:28,056 --> 00:17:31,131
その威厳は ヒトラーの理想と一致する
210
00:17:32,093 --> 00:17:37,094
ナチスにとっては
象徴的な価値も大きかった
211
00:17:37,094 --> 00:17:42,044
“第一帝国”の礎を築いた
カール大帝が
212
00:17:42,044 --> 00:17:44,091
王都とした場所だからだ
213
00:17:45,053 --> 00:17:48,103
“第三帝国”成立を目指す
ナチスは
214
00:17:48,103 --> 00:17:54,058
歴史的な結び付きを
見いだしていたわけだ
215
00:17:58,121 --> 00:18:02,134
都市は丘のバンカーに 守られてはいたが
216
00:18:03,063 --> 00:18:06,122
戦いが激化すると 荒れていった
217
00:18:07,097 --> 00:18:11,064
空気は悪くなり
煙だらけになった
218
00:18:14,043 --> 00:18:15,110
今だ! 撃て!
219
00:18:16,048 --> 00:18:17,123
撃ち続けろ!
220
00:18:20,057 --> 00:18:23,094
マシンガンの音は
大きく反響するので
221
00:18:23,094 --> 00:18:28,062
一般兵士にとっては
精神的負担も大きかった
222
00:18:46,076 --> 00:18:48,076
バンカー下の斜面で
223
00:18:48,076 --> 00:18:53,064
ブラウンは梱包爆薬を どう使うか迷っていた
224
00:18:54,098 --> 00:18:56,135
攻撃を受けていなければ
225
00:18:57,044 --> 00:19:01,136
近くに行き 慎重に複数を 設置することもできる
226
00:19:02,115 --> 00:19:07,082
接近戦での使用は
即興であるケースが多い
227
00:19:08,103 --> 00:19:10,099
ブラウンは決断した
228
00:19:10,099 --> 00:19:13,108
爆発までの時間は3秒だ
229
00:19:13,108 --> 00:19:17,142
退避に使える時間は 極めて短い
230
00:19:18,137 --> 00:19:25,088
バンカー脇まで腹ばいで行き
裏側に回るのも1つの手だ
231
00:19:25,088 --> 00:19:28,126
そうすれば
裏口の状況が分かり
232
00:19:29,055 --> 00:19:34,085
扉からの進入や爆薬の投入が
可能か判断できる
233
00:19:35,102 --> 00:19:40,119
でも 開口部に投げ込めば 彼は爆発に巻き込まれない
234
00:19:44,057 --> 00:19:45,140
ブラウンは走り出す
235
00:19:46,057 --> 00:19:48,124
開口部を目指し 突進すると―
236
00:19:49,099 --> 00:19:52,070
目の前にドイツ兵が現れた
237
00:20:00,129 --> 00:20:04,142
ブラウンが開口部へと 再び動き出す前に
238
00:20:05,050 --> 00:20:08,063
敵がバンカーに駆け戻った
239
00:20:08,063 --> 00:20:12,084
ブラウンは 彼を閉じ込めようとするが
240
00:20:12,084 --> 00:20:14,047
扉が閉まらない
241
00:20:14,047 --> 00:20:19,068
{\an8}ドイツ兵が肩に
掛けていた銃が滑り落ち
242
00:20:19,068 --> 00:20:21,044
ロバート・バウマー
「Aachen」著者
243
00:20:21,044 --> 00:20:23,077
{\an8}ドア枠との間に
挟まっていたんだ
244
00:20:23,077 --> 00:20:27,069
ブラウンは扉を開けて 銃を蹴り入れ―
245
00:20:27,069 --> 00:20:32,103
信管を作動させた爆薬を 投げ込み 扉を閉めた
246
00:20:39,050 --> 00:20:42,133
爆発と共に ブラウンも大きく飛んだ
247
00:20:43,113 --> 00:20:47,055
ブラウンの隊員たちは
丘の下から
248
00:20:47,055 --> 00:20:52,072
バンカーの開口部や通気口に
煙が上がるのを見た
249
00:20:52,072 --> 00:20:54,051
炎もすさまじく
250
00:20:54,051 --> 00:20:59,052
次から次へと
大きな爆発音が鳴り響いた
251
00:21:01,073 --> 00:21:03,106
破壊は見事に成功した
252
00:21:03,106 --> 00:21:07,111
バンカー内で
あのサイズの爆薬を使えば
253
00:21:07,111 --> 00:21:10,090
すさまじい破壊力を発揮する
254
00:21:12,070 --> 00:21:14,107
生存したドイツ兵はゼロ
255
00:21:15,062 --> 00:21:18,087
人体は見事に
バラバラになっていた
256
00:21:22,091 --> 00:21:27,096
第18歩兵連隊C中隊の 指揮統制部隊は
257
00:21:27,096 --> 00:21:32,076
自分たちの隊長が 無事に戻って喜んだ
258
00:21:32,076 --> 00:21:35,122
ブラウンは すぐに状況報告を求めた
259
00:21:36,064 --> 00:21:40,135
爆破は成功したものの C中隊とA中隊は
260
00:21:41,043 --> 00:21:44,110
相変わらず 身動きを取れずにいる
261
00:21:47,061 --> 00:21:51,128
他のバンカーは引き続き 機能していたためだ
262
00:21:52,057 --> 00:21:54,136
高所のバンカーは視界が良く
263
00:21:55,045 --> 00:21:58,116
正確に米兵を 狙うことができた
264
00:22:05,100 --> 00:22:07,125
ブラウンが丘を見上げると
265
00:22:07,125 --> 00:22:11,059
別のバンカーが目に入った
266
00:22:13,063 --> 00:22:14,101
もう一仕事だ
267
00:22:14,101 --> 00:22:19,047
爆破したバンカーは
司令部壕ではなかった
268
00:22:19,047 --> 00:22:22,089
ブラウンは独軍による攻撃の
269
00:22:22,089 --> 00:22:26,048
指揮統制を担う壕を
落としたかった
270
00:22:26,048 --> 00:22:32,057
自分が行くと申し出た兵士に
ブラウンは言った
271
00:22:32,057 --> 00:22:36,107
“これは俺のばくちだ
まだやめる気はない”
272
00:22:37,074 --> 00:22:38,087
梱包爆薬を
273
00:22:38,087 --> 00:22:44,083
今度は 梱包爆薬と 柄付き爆薬の両方を用意した
274
00:22:47,050 --> 00:22:52,121
柄付き爆薬は長い棒の先に
小さな爆薬を付けた物だ
275
00:22:54,067 --> 00:22:55,142
梱包爆薬と違い
276
00:22:56,051 --> 00:23:01,122
爆破したい対象物の隙間に
正確に配置することができる
277
00:23:02,089 --> 00:23:05,089
即席で自作することが可能で
278
00:23:05,089 --> 00:23:08,077
爆薬の量も簡単に調整できる
279
00:23:08,077 --> 00:23:11,102
{\an8}歩兵部隊付きの
工兵部隊が
280
00:23:11,102 --> 00:23:13,073
スティーヴン・ザロガ
軍事史学者 著述家
281
00:23:13,073 --> 00:23:16,065
{\an8}戦場で梱包爆薬から
柄付き爆薬を作った
282
00:23:16,065 --> 00:23:18,116
次の標的は定まった
283
00:23:18,116 --> 00:23:20,141
だが自分の隊が動けば
284
00:23:21,049 --> 00:23:25,083
味方の援軍からも 砲弾が発射される
285
00:23:25,083 --> 00:23:28,046
近づきすぎるのは危険だ
286
00:23:32,138 --> 00:23:34,088
発煙弾を頼む
287
00:23:34,088 --> 00:23:39,118
ブラウンは伝達係に 黄色の発煙弾を投げ込ませる
288
00:23:44,118 --> 00:23:49,081
バンカーに近づくために 味方の砲撃隊へ
289
00:23:49,081 --> 00:23:51,131
中断の合図を出したのだ
290
00:24:04,112 --> 00:24:09,071
バンカーの中からは 黄色い煙が見えない
291
00:24:09,071 --> 00:24:13,121
厚い鉄筋コンクリートの壁は 砲撃に強いが
292
00:24:14,046 --> 00:24:17,055
至近距離の視界が 非常に悪い
293
00:24:21,068 --> 00:24:25,056
各バンカーの射界には 限界があるため
294
00:24:25,056 --> 00:24:31,052
お互いを補い合えるよう 射界が重なる形で建っている
295
00:24:31,052 --> 00:24:33,102
1つがやられても
296
00:24:33,102 --> 00:24:37,132
周囲のバンカーで 斜面を守れる仕組みだ
297
00:24:47,120 --> 00:24:49,066
ブラウンが忍び寄る
298
00:24:50,050 --> 00:24:53,104
再び裏口を
目指すつもりだった
299
00:24:53,104 --> 00:24:59,126
でも標的に近づくにつれ
銃撃があまりに激化したから
300
00:24:59,126 --> 00:25:01,122
見つかったと思った
301
00:25:02,084 --> 00:25:04,126
身を隠さねば危険だ
302
00:25:05,130 --> 00:25:09,122
銃で狙える高さの下を
くぐり抜けられれば
303
00:25:10,052 --> 00:25:12,056
接近は可能だった
304
00:25:14,052 --> 00:25:16,048
頭上の銃撃が止まる
305
00:25:17,061 --> 00:25:21,069
ブラウンは進み続けながら
判断した
306
00:25:21,069 --> 00:25:24,141
今回は正面から
攻めるのが正解だと
307
00:25:26,116 --> 00:25:31,079
そして柄付き爆薬が届く
ギリギリの距離まで
308
00:25:31,079 --> 00:25:33,112
開口部に接近した
309
00:25:38,134 --> 00:25:41,130
爆破対象とは至近距離だ
310
00:25:41,130 --> 00:25:45,126
信管を作動させれば 3秒で爆発は起きる
311
00:25:54,135 --> 00:25:56,127
強力な爆発だったが
312
00:25:56,127 --> 00:26:02,128
ブラウンが放った爆薬は バンカー破壊に至らなかった
313
00:26:06,086 --> 00:26:11,091
だが爆発で 開口部は広がり 敵兵は取り乱している
314
00:26:15,117 --> 00:26:18,113
{\an8}ブラウンは
まだいけると判断した
315
00:26:18,113 --> 00:26:20,109
ロバート・バウマー
「Aachen」著者
316
00:26:20,109 --> 00:26:21,046
{\an8}梱包爆薬を手に取り
317
00:26:21,046 --> 00:26:24,101
{\an8}広がった開口部へと
向かった
318
00:26:25,084 --> 00:26:29,126
信管を作動させ 爆薬をバンカーに投げ込み
319
00:26:29,126 --> 00:26:34,048
爆発から逃れるため 急いで走り去る
320
00:26:41,098 --> 00:26:46,065
燃え盛るバンカーを背に ブラウンは隊の元に戻った
321
00:26:47,120 --> 00:26:52,079
この事例が異例な点は
遂行者が大尉だったことだ
322
00:26:52,079 --> 00:26:57,058
{\an8}爆薬を手に走り回るのは
大尉の任務ではなく
323
00:26:57,067 --> 00:27:00,096
{\an8}下士官レベルに
任せるべき仕事だ
324
00:27:01,092 --> 00:27:03,121
ただ 1944年の秋までで
325
00:27:03,121 --> 00:27:07,059
第1歩兵師団は
多くの兵を失っていた
326
00:27:07,059 --> 00:27:09,076
頼れる部下がおらず
327
00:27:09,076 --> 00:27:13,077
自分でやるしかないと
思ったのだろう
328
00:27:14,127 --> 00:27:18,110
ブラウンは 隊の進み具合を尋ねた
329
00:27:20,044 --> 00:27:24,065
通信士はブラウンの
水筒に開いた弾痕と
330
00:27:24,065 --> 00:27:25,140
出血に気づく
331
00:27:26,049 --> 00:27:27,053
傷が!
332
00:27:31,078 --> 00:27:36,087
アドレナリンによる
まひ状態だったブラウンは
333
00:27:36,087 --> 00:27:41,121
水筒に開いた穴など
気にも留めなかった
334
00:27:42,109 --> 00:27:45,080
ひざから出血していたが
335
00:27:45,080 --> 00:27:48,097
引っかき傷程度に思っていた
336
00:27:49,047 --> 00:27:50,051
心配ない
337
00:27:51,089 --> 00:27:54,110
ブラウンは 状況報告を催促する
338
00:27:57,077 --> 00:28:01,102
ようやく第2小隊が 丘を上り始めたと知るが
339
00:28:01,102 --> 00:28:06,090
隊の被害は大きく 小隊長も犠牲になっていた
340
00:28:06,090 --> 00:28:11,057
米軍の突撃をものともせず 独軍は撃ち続ける
341
00:28:22,075 --> 00:28:25,138
実は1ヵ月前まで 独軍の指揮官は
342
00:28:26,063 --> 00:28:28,134
シュヴェリーン中佐だった
343
00:28:28,134 --> 00:28:32,093
彼は米軍への降伏を 考えていた
344
00:28:34,097 --> 00:28:38,098
アーヘンが 攻撃の脅威にさらされると
345
00:28:39,102 --> 00:28:44,140
戦前は1万6500人いた市民の 多くが避難しようとした
346
00:28:45,048 --> 00:28:48,124
兵士も市民も 大混乱に陥ったのだ
347
00:28:49,074 --> 00:28:53,070
住民の退避が 間に合わないことを懸念し
348
00:28:53,070 --> 00:28:58,058
シュヴェリーンは 人々に避難の中止を指示した
349
00:28:59,100 --> 00:29:02,121
そして彼は 米軍の司令官宛てに
350
00:29:02,121 --> 00:29:06,104
市民の保護を求める手紙を したためた
351
00:29:06,104 --> 00:29:09,109
米軍への降伏を 意味する内容だ
352
00:29:12,068 --> 00:29:16,076
ヒトラーに反する 非常に危険な行為だった
353
00:29:16,076 --> 00:29:20,093
{\an8}ドイツの国土では
最後の1人まで戦うのが
354
00:29:20,093 --> 00:29:21,073
ペーター・リーブ
軍事史学者
355
00:29:21,073 --> 00:29:23,085
{\an8}ヒトラーの指示だった
356
00:29:26,106 --> 00:29:28,077
ナチスは こう報じた
357
00:29:28,077 --> 00:29:31,132
“アーヘンは
最後まで抵抗すべきだ”と
358
00:29:33,049 --> 00:29:36,095
実際のアーヘンの状況とは
359
00:29:36,095 --> 00:29:41,066
かけ離れていたと
言わざるを得ない
360
00:29:42,096 --> 00:29:47,075
米軍に届く前に 手紙はナチスの手に渡り―
361
00:29:48,050 --> 00:29:51,059
シュヴェリーンは更迭された
362
00:29:52,113 --> 00:29:56,105
そして死ぬまで戦う指揮官が 選ばれた
363
00:30:05,081 --> 00:30:08,090
そして今 丘を進み始めた隊員に
364
00:30:08,090 --> 00:30:14,128
ブラウンは 丘の低地にある バンカーの制圧を命じる
365
00:30:19,108 --> 00:30:21,079
観察したところ
366
00:30:21,079 --> 00:30:24,100
頂上の 巨大なバンカーが見えた
367
00:30:32,121 --> 00:30:35,138
かなりの重装備で 攻撃を続けている
368
00:30:42,077 --> 00:30:43,064
梱包爆薬を
369
00:30:46,089 --> 00:30:49,136
ブラウンは再び襲撃を試みる
370
00:30:58,049 --> 00:31:02,045
ブラウンが丘の頂上に 接近したのは
371
00:31:02,045 --> 00:31:04,133
1944年10月8日の午後だった
372
00:31:06,046 --> 00:31:09,138
丘の名の由来だった十字架は 崩壊している
373
00:31:12,075 --> 00:31:16,122
十字架は独軍にとって 米軍を迎え撃つのに
374
00:31:16,122 --> 00:31:19,139
絶好の前哨地点だった
375
00:31:20,064 --> 00:31:23,102
一部の目撃者の証言によれば
376
00:31:23,102 --> 00:31:29,090
十字架は戦闘開始前に
P-47の攻撃で倒された
377
00:31:29,090 --> 00:31:32,073
{\an8}これに対して独軍側は
378
00:31:32,073 --> 00:31:35,078
ロバート・バウマー
「Aachen」著者
379
00:31:35,078 --> 00:31:35,099
{\an8}自分たちが倒したと
主張した
380
00:31:36,086 --> 00:31:39,120
理由は米兵が十字架に登り
381
00:31:39,120 --> 00:31:45,129
監視所として使用するのを
避けるためだったとか
382
00:31:47,079 --> 00:31:50,062
アーヘンを守る 防衛線の一掃が
383
00:31:50,062 --> 00:31:52,096
ブラウンの最終目標だ
384
00:31:52,096 --> 00:31:57,122
既にバンカーを2つ破壊し 3つ目を狙う気でいる
385
00:31:59,130 --> 00:32:03,051
{\an8}監視と銃撃の
両方を重視した―
386
00:32:03,051 --> 00:32:06,077
{\an8}タイプの違うバンカーが
存在する
387
00:32:06,077 --> 00:32:09,139
スティーヴン・ザロガ
軍事史学者 著述家
388
00:32:09,139 --> 00:32:11,060
{\an8}屋根に装甲ドームがあり
389
00:32:11,060 --> 00:32:15,111
{\an8}そこに監視用の小窓が
6~8つ開いている
390
00:32:15,111 --> 00:32:20,141
防弾盾まである場合もあり
外部攻撃に極めて強い
391
00:32:21,049 --> 00:32:22,112
彼はそれを見つけた
392
00:32:23,045 --> 00:32:27,066
{\an8}資料によれば その名は
“パンツァーターム”
393
00:32:27,066 --> 00:32:31,071
パンツァーターム
394
00:32:31,071 --> 00:32:32,075
{\an8}“パンツァー”は
“装甲”の意だ
395
00:32:32,075 --> 00:32:34,134
{\an8}約7・6センチの
鋼板を指す
396
00:32:35,096 --> 00:32:38,130
“砲塔”と
誤訳されがちだが別物だ
397
00:32:39,051 --> 00:32:42,068
{\an8}砲塔の部品は
使われていないし
398
00:32:42,068 --> 00:32:43,118
{\an8}旋回もしない
399
00:32:43,118 --> 00:32:47,118
パンツァーターム
400
00:32:47,118 --> 00:32:51,098
{\an8}残りの巨大な構造物は
地中深くに埋まっている
401
00:32:51,098 --> 00:32:56,107
{\an8}45人程度が不自由なく
過ごせる設備だという
402
00:32:57,073 --> 00:33:01,053
パンツァータームは 防衛の要所に造られた
403
00:33:04,062 --> 00:33:06,083
固有の名称があるのに
404
00:33:06,083 --> 00:33:12,083
米軍に誤訳されて“砲塔”と
呼ばれていることがある
405
00:33:16,129 --> 00:33:19,105
パンツァータームが 次の標的だ
406
00:33:20,122 --> 00:33:24,047
巨大なバンカーの
立派な造りと
407
00:33:24,047 --> 00:33:27,081
建っている位置や
てっぺんのドーム
408
00:33:27,081 --> 00:33:32,127
これこそが敵の指揮系統の
中枢だとブラウンは思った
409
00:33:33,060 --> 00:33:34,119
落とすしかない
410
00:33:36,065 --> 00:33:42,095
斜面を上る米兵に向けた バンカーからの攻撃は続く
411
00:33:42,095 --> 00:33:45,057
敵の行動の詳細は不明だ
412
00:33:45,057 --> 00:33:48,062
資料が全然残っていない
413
00:33:48,062 --> 00:33:54,071
バンカー間の通信は
恐らく円滑に行われていた
414
00:33:54,071 --> 00:33:56,083
大事なのは状況把握力
415
00:33:56,083 --> 00:34:01,130
近くのバンカーや上官との
通信手段が生きているか
416
00:34:02,047 --> 00:34:06,089
{\an8}隣のバンカーが
持ちこたえているか否か
417
00:34:06,089 --> 00:34:06,118
ペーター・リーブ
軍事史学者
418
00:34:06,118 --> 00:34:11,127
{\an8}各バンカーの状況が
複雑に絡み合うので
419
00:34:12,043 --> 00:34:16,065
{\an8}指揮官は判断に
苦労したと思う
420
00:34:18,090 --> 00:34:19,132
銃弾はまだか!
421
00:34:19,132 --> 00:34:25,141
ドイツ兵は攻撃を続けながら 火力を絶え間なく補充した
422
00:34:31,062 --> 00:34:35,100
ブラウンは側面から バンカーに接近する
423
00:34:35,100 --> 00:34:39,084
外壁には近づけたが 何とも厚い壁だ
424
00:34:39,084 --> 00:34:43,046
突き破るには 莫大な量の爆薬が要る
425
00:34:46,076 --> 00:34:50,068
手元にあるのは 約6.8キロ分のTNTだ
426
00:34:53,118 --> 00:34:56,085
トリニトロトルエンは
427
00:34:56,085 --> 00:34:59,127
世界で最も使われている 爆薬の一種だ
428
00:34:59,127 --> 00:35:02,136
兵器への使用も いまだに多い
429
00:35:03,057 --> 00:35:09,124
戦時中は1つのTNT工場で 1日に32万キロ以上作られた
430
00:35:10,074 --> 00:35:12,112
安定性の評価が高く
431
00:35:12,112 --> 00:35:17,087
安心して扱えるので 兵士に重宝されたのだ
432
00:35:27,134 --> 00:35:33,085
今回も 中に投入しない限り 被害は小さそうだ
433
00:35:34,122 --> 00:35:37,135
近くには もう1つバンカーがあった
434
00:35:39,044 --> 00:35:45,099
ブラウンは その造りを見て 弾薬庫だろうと予想した
435
00:35:45,099 --> 00:35:50,128
もし大きいバンカーの裏から
人が出てくれば
436
00:35:51,074 --> 00:35:54,087
銃弾の補充が
目的だろうと考えた
437
00:35:55,049 --> 00:35:56,091
銃弾を補充!
438
00:35:56,091 --> 00:35:58,071
〈了解!〉
439
00:36:02,100 --> 00:36:03,130
ブラウンが待っていると
440
00:36:03,130 --> 00:36:08,101
大きいバンカーの後方から 敵兵が出てきた
441
00:36:10,130 --> 00:36:14,064
ブラウンは この瞬間を待っていた
442
00:36:26,086 --> 00:36:29,140
ブラウンは バンカーから出てきた敵兵が
443
00:36:30,049 --> 00:36:34,116
弾薬を抱えて戻っていく 様子を見ていた
444
00:36:40,046 --> 00:36:44,100
ブラウンは気づかれぬように
敵に忍び寄った
445
00:36:47,076 --> 00:36:49,055
至近距離に来た
446
00:36:50,101 --> 00:36:53,139
敵は弾薬で
両手が塞がれている
447
00:36:54,064 --> 00:36:58,118
{\an8}扉を閉めるために
荷物を下に置いた時―
448
00:36:58,118 --> 00:37:00,135
ロバート・バウマー
「Aachen」著者
449
00:37:00,135 --> 00:37:02,102
{\an8}彼は米軍の大尉と
初めて目が合った
450
00:37:02,102 --> 00:37:04,094
敵が反応する前に
451
00:37:04,094 --> 00:37:10,082
ブラウンは弾薬の横に 作動させた梱包爆薬を投げた
452
00:37:15,087 --> 00:37:16,141
爆発が起きた時
453
00:37:17,049 --> 00:37:21,079
動きが鈍っていたブラウンは
やや逃げ遅れた
454
00:37:21,079 --> 00:37:24,096
爆風で真っ逆さまに
なりながら
455
00:37:24,096 --> 00:37:27,138
元いたくぼみまで舞い戻った
456
00:37:28,117 --> 00:37:30,130
待ったかいがあった
457
00:37:31,059 --> 00:37:37,072
彼が投じた梱包爆薬は 敵が運んだ銃弾も爆発させ
458
00:37:37,072 --> 00:37:39,068
爆発の威力は増大した
459
00:37:39,068 --> 00:37:41,127
ブラウンの粘り勝ちだ
460
00:37:43,089 --> 00:37:47,132
日頃の訓練のたまものと
言える攻撃だった
461
00:37:50,094 --> 00:37:55,120
非常にブラウンらしい
大胆不敵な行動だ
462
00:37:56,078 --> 00:38:01,070
彼にとっては任務の遂行が
何より大事で
463
00:38:01,070 --> 00:38:03,142
自分のことは二の次だった
464
00:38:09,109 --> 00:38:11,138
3つ目のバンカーが破壊され
465
00:38:12,046 --> 00:38:16,064
丘の南側の斜面は 米軍の手に落ちた
466
00:38:16,064 --> 00:38:20,118
敵の司令部壕が
陥落したおかげで
467
00:38:20,118 --> 00:38:23,085
隊は動けるようになった
468
00:38:23,085 --> 00:38:26,077
彼らは一気に前に進み
469
00:38:26,077 --> 00:38:32,099
他のトーチカの兵士も
投降させることができたのだ
470
00:38:36,141 --> 00:38:40,124
ブラウンは負傷したまま 動き続ける
471
00:38:41,054 --> 00:38:44,121
彼にはまだ
やるべきことがあった
472
00:38:45,050 --> 00:38:49,092
まだ丘を完全に
制圧できたわけではない
473
00:38:49,092 --> 00:38:54,047
彼が次にすべきは
丘の反対側を偵察して
474
00:38:54,047 --> 00:39:00,051
敵が必ず起こす反撃に備え
隊を整えることだった
475
00:39:00,051 --> 00:39:02,106
だから彼は丘にとどまった
476
00:39:04,110 --> 00:39:07,064
ブラウンが 丘の北側に回ると―
477
00:39:08,098 --> 00:39:13,082
足元を機関銃で狙われ 彼は地面に倒れ込んだ
478
00:39:15,078 --> 00:39:20,053
再び敵の 格好の標的になってしまった
479
00:39:22,104 --> 00:39:25,091
少し間を置き 頭を上げてみる
480
00:39:26,141 --> 00:39:29,121
すぐさま独軍は反応した
481
00:39:31,067 --> 00:39:33,121
弾丸が耳元をかすめる
482
00:39:34,051 --> 00:39:38,105
ブラウンは弾が飛んでくる
方向を見極めていた
483
00:39:38,105 --> 00:39:43,135
反撃に備えて自分の隊を
適切に配置するためだ
484
00:39:48,119 --> 00:39:51,106
頭を下げヘルメットを脱いだ
485
00:39:54,069 --> 00:40:00,049
ヘルメットを脱いだのは
指にかぶせて振り回すことで
486
00:40:00,049 --> 00:40:05,141
ドイツ兵の目を欺き
発砲を誘導するためだった
487
00:40:12,125 --> 00:40:17,046
欲しかった答えは 手に入ったが
488
00:40:17,046 --> 00:40:19,063
今は何もできない
489
00:40:31,052 --> 00:40:33,127
ブラウンは 司令部隊の元に戻った
490
00:40:39,124 --> 00:40:42,103
敵の位置を部下に伝える
491
00:40:42,103 --> 00:40:43,120
一斉射撃だ!
492
00:40:43,120 --> 00:40:46,074
南側の兵士に攻撃を命じた
493
00:40:46,074 --> 00:40:48,091
攻撃を止めるな!
494
00:40:48,091 --> 00:40:54,071
各部隊長に丘の頂上まで 到達したことも伝えた
495
00:40:56,075 --> 00:41:00,047
攻撃開始から わずか40分のことだった
496
00:41:00,047 --> 00:41:02,139
丘を敵に返す気はない
497
00:41:14,061 --> 00:41:17,086
ブラウンが目指すのは 確固たる勝利
498
00:41:20,065 --> 00:41:21,124
全トーチカを制圧し―
499
00:41:24,045 --> 00:41:27,058
各部隊を丘の上に移動させる
500
00:41:31,054 --> 00:41:36,059
すべての仕事を終えるまで ケガの治療は後回しだ
501
00:41:38,096 --> 00:41:43,118
その夜 彼の予想どおり 敵は反撃を仕掛けてきたが
502
00:41:44,097 --> 00:41:46,130
無事に撃退に成功
503
00:41:47,139 --> 00:41:52,119
夜が明けても丘は 米軍の支配下にあった
504
00:41:57,073 --> 00:41:59,136
勇敢で大胆な戦いが評価され
505
00:42:00,082 --> 00:42:06,045
ブラウンは軍人にとって 最高位の勲章を与えられた
506
00:42:06,045 --> 00:42:09,058
議会名誉勲章を受賞したのだ
507
00:42:09,058 --> 00:42:12,058
ホワイトハウスでの授賞式で
508
00:42:12,058 --> 00:42:16,092
トルーマン大統領から
授与された
509
00:42:16,092 --> 00:42:21,084
大統領がブラウンの首に
メダルをかけて言った
510
00:42:21,084 --> 00:42:25,126
“私もメダルが欲しいから
大統領をやめよう”
511
00:42:25,126 --> 00:42:29,135
ブラウンは
冷静な判断力を発揮して
512
00:42:30,043 --> 00:42:31,102
大統領にこう答えた
513
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“ご冗談を 大統領”
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00:42:35,077 --> 00:42:40,102
晩年 ケガの後遺症に苦しみ
うつ病を発症した末―
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1971年にブラウンは 自ら命を絶った
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“十字架の丘”の制圧を機に
包囲は進み
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1944年10月21日には アーヘンの降伏が実現した
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ドイツ側で非難を浴びたのは
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00:43:02,109 --> 00:43:06,105
前指揮官の シュヴェリーン中佐だった
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00:43:06,105 --> 00:43:10,068
アーヘン陥落は
彼の責任だとされた
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00:43:10,068 --> 00:43:13,068
{\an8}ヒトラーは処分を
望んだだろうが
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00:43:13,068 --> 00:43:17,073
{\an8}シュヴェリーンは
周囲の上官に守られた
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00:43:17,073 --> 00:43:21,065
おかげでヒトラーは
この一件を忘れたのか
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後にシュヴェリーンは
イタリアの前線で活躍する
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アーヘンは 最初に陥落した主要都市だ
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ナチスとドイツ国民は
大打撃を受けた
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ドイツの西方では米兵が
国土を踏んでいることになる
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{\an8}東プロイセンでは
ソ連軍の侵攻も始まった
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00:43:46,072 --> 00:43:49,126
{\an8}ドイツ領内が
戦場になり始めている
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00:43:50,089 --> 00:43:54,043
{\an8}そして秋は深まり
寒い冬が近づく
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00:43:54,043 --> 00:43:56,110
{\an8}独軍の士気は
再び上昇する
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00:43:56,110 --> 00:43:58,110
{\an8}東ではソ連軍の
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00:43:58,110 --> 00:44:03,044
{\an8}西では連合軍の進攻が
失速するためだ
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00:44:04,115 --> 00:44:09,065
{\an8}欧州での大戦は
さらに6ヵ月続く
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日本語字幕 池田 由香