1 00:00:24,709 --> 00:00:28,834 白鳥 2 00:00:29,501 --> 00:00:32,418 アーニーは誕生日に 銃をもらい⸺ “公共の歩道” 3 00:00:32,418 --> 00:00:36,001 弾を持って 撃つ相手を探しに出た “公共の歩道” 4 00:00:36,001 --> 00:00:40,709 レイモンドの家の前で 甲高く口笛を吹く 5 00:00:41,501 --> 00:00:44,376 彼は親友 家は4軒先だ 6 00:00:44,376 --> 00:00:46,501 アーニーの銃を見て⸺ 7 00:00:46,501 --> 00:00:49,418 “すげえ”と言った “遊ぼうよ” 8 00:00:50,376 --> 00:00:53,626 2人は出かけた 5月の土曜の朝 9 00:00:53,626 --> 00:00:58,209 栗の花は満開で サンザシは垣を白く彩る 10 00:00:58,209 --> 00:01:03,209 2人は小道を進みながら 小鳥を見つけては撃った 11 00:01:03,209 --> 00:01:06,126 ウソにスズメにノドジロ 12 00:01:06,126 --> 00:01:10,834 線路へ着く頃には 14羽も紐(ひも)に下げていた 13 00:01:11,668 --> 00:01:14,834 アーニーが“あそこを見ろ” 14 00:01:14,834 --> 00:01:19,418 そこでは少年が 双眼鏡で木を見ていた 15 00:01:19,418 --> 00:01:21,084 “ワトスンだ” 16 00:01:22,584 --> 00:01:27,501 ピーター・ワトスンは ひ弱で そばかす顔に分厚いメガネ 17 00:01:27,501 --> 00:01:31,709 勉強ができて 13歳なのに上級のクラス 18 00:01:31,709 --> 00:01:37,126 音楽が好きでピアノも上手 運動は苦手 礼儀正しい 19 00:01:39,043 --> 00:01:42,293 体の大きな2人は忍び寄った 20 00:01:44,293 --> 00:01:49,459 小さな少年は 双眼鏡に夢中で気づかない 21 00:01:50,459 --> 00:01:52,834 “手を上げろ”とアーニー 22 00:01:52,834 --> 00:01:54,751 ピーターは驚いた 23 00:01:56,501 --> 00:01:59,168 2人の侵入者を見つめる 24 00:01:59,168 --> 00:02:01,501 “ほら 手を上げろよ” 25 00:02:01,501 --> 00:02:05,709 ピーターは双眼鏡を前に じっと立ち⸺ 26 00:02:05,709 --> 00:02:07,543 2人を見た 27 00:02:07,543 --> 00:02:11,126 怖くはないが 抵抗しない方がいい 28 00:02:11,126 --> 00:02:13,751 長年 いじめられている 29 00:02:13,751 --> 00:02:14,876 手を上げて 30 00:02:14,876 --> 00:02:16,834 それが賢明だ 31 00:02:16,834 --> 00:02:21,668 レイモンドが双眼鏡を奪う “誰を見張ってた?” 32 00:02:21,668 --> 00:02:23,959 ピーターは思案した 33 00:02:23,959 --> 00:02:29,334 逃げても すぐ捕まる 助けを呼んでも届かない 34 00:02:29,334 --> 00:02:33,959 だから騒がず 会話で打開するしかない 35 00:02:33,959 --> 00:02:36,418 “アオゲラを見てた” 36 00:02:36,418 --> 00:02:39,668 “何だと?” “オスのアオゲラだ” 37 00:02:39,668 --> 00:02:43,001 “木の幹を叩いて 虫を探してた” 38 00:02:43,001 --> 00:02:45,001 “どこだ?”とアーニー 39 00:02:45,001 --> 00:02:47,376 “撃ってやる” “ダメだ”と⸺ 40 00:02:47,376 --> 00:02:50,459 ピーターは 紐の小鳥たちを見た 41 00:02:50,459 --> 00:02:54,001 “声で飛んでった アオゲラは臆病な鳥なんだ” 42 00:02:59,834 --> 00:03:04,126 レイモンドの耳打ちに アーニーは腿(もも)を叩いた 43 00:03:04,126 --> 00:03:08,376 銃を下へ置くと ピーターを投げ飛ばした 44 00:03:08,376 --> 00:03:13,459 レイモンドが紐を切り 2人でピーターの手首を縛る 45 00:03:13,459 --> 00:03:15,043 “今度は脚だ” 46 00:03:15,043 --> 00:03:19,584 ピーターはもがいたが 腹を殴られ ぐったりした 47 00:03:19,584 --> 00:03:23,626 両足首も縛られ 身動きできない 48 00:03:23,626 --> 00:03:28,418 アーニーは銃を持ち 2人で少年を線路へ運ぶ 49 00:03:28,418 --> 00:03:33,334 ピーターは黙っていた 何を話したってムダだ 50 00:03:33,334 --> 00:03:38,418 2人は餌食(えじき)を線路に寝かせた この線路だ 51 00:03:40,418 --> 00:03:44,959 27年前の出来事だ 僕の名はピーター 52 00:03:46,209 --> 00:03:47,793 “紐を”とアーニー 53 00:03:51,876 --> 00:03:55,709 縛り終えると かろうじて動くのは⸺ 54 00:03:55,709 --> 00:03:58,459 頭と足先だけだった 55 00:03:58,459 --> 00:04:03,376 2人は仕上がりを吟味した “上出来だ”とアーニー 56 00:04:03,376 --> 00:04:06,418 “これは人殺しだ”と ピーター 57 00:04:06,418 --> 00:04:08,418 “そうかな”とアーニー 58 00:04:08,418 --> 00:04:13,126 “列車の下の隙間によるさ 寝てりゃ助かるかも” 59 00:04:14,584 --> 00:04:18,001 2人は土手を上り 茂みの陰へ 60 00:04:18,001 --> 00:04:20,209 タバコを吸い出した 61 00:04:20,209 --> 00:04:24,501 彼らは解放しない 凶暴でイカれた連中だ 62 00:04:24,501 --> 00:04:27,043 凶暴でイカれててバカだ 63 00:04:27,043 --> 00:04:32,084 “落ち着かなきゃ”と ピーターは考えを巡らせた 64 00:04:32,084 --> 00:04:34,043 一番高いのは鼻だ 65 00:04:34,043 --> 00:04:37,793 線路から10センチほど 出ている 66 00:04:37,793 --> 00:04:40,418 最近の機関車の隙間は? 67 00:04:40,418 --> 00:04:45,918 頭は枕木の間の砂利の上だ 少し下げないと 68 00:04:45,918 --> 00:04:51,626 頭を動かして砂利を押しどけ 小さな くぼみを作った 69 00:04:51,626 --> 00:04:56,084 これで5センチは下がった だが足は? 70 00:04:56,084 --> 00:05:00,834 足首を内側に曲げ 平らにして列車を待つ 71 00:05:00,834 --> 00:05:04,501 もし車両の下が 真空状態となり⸺ 72 00:05:04,501 --> 00:05:07,626 体が吸い上げられたら? 73 00:05:07,626 --> 00:05:12,043 集中して全身を地面に 押しつけないと 74 00:05:12,043 --> 00:05:15,918 “全身を固くして 地面に密着させろ” 75 00:05:15,918 --> 00:05:21,001 白い空を見ると 雲が1つ ゆっくり流れていく 76 00:05:21,001 --> 00:05:25,084 飛行機が雲を横切る 赤い単葉機だ 77 00:05:25,084 --> 00:05:29,251 彼は旧式の機体が 消えるまで見つめた 78 00:05:29,251 --> 00:05:30,418 すると突然⸺ 79 00:05:30,418 --> 00:05:34,334 奇妙な振動音が レールから聞こえた 80 00:05:34,334 --> 00:05:40,418 かすかなブーンという音で 遠くからレールを伝ってくる 81 00:05:46,168 --> 00:05:48,918 頭を上げて線路を 見やると⸺ 82 00:05:48,918 --> 00:05:52,209 一直線の先に列車が見えた 83 00:05:52,209 --> 00:05:56,793 最初は黒い点だったが みるみる大きくなり⸺ 84 00:05:56,793 --> 00:06:02,543 形を帯びて 機関車の前面の 大きな四角形となった 85 00:06:02,543 --> 00:06:07,001 彼は頭を砂利の くぼみに 押し入れると⸺ 86 00:06:07,001 --> 00:06:11,584 足首を曲げ 目を閉じ 地面に体を沈めた 87 00:06:11,584 --> 00:06:16,168 列車は大爆発のような轟音(ごうおん)で 襲ってきた 88 00:06:16,168 --> 00:06:18,876 同時に すさまじい爆風が⸺ 89 00:06:18,876 --> 00:06:22,293 鼻から肺へと吹き荒れる 90 00:06:22,293 --> 00:06:25,084 耳を裂く轟音 息詰まる風 91 00:06:25,084 --> 00:06:31,126 いきり立つ怪物の胃袋に 生きながら呑まれるようだ 92 00:06:31,126 --> 00:06:33,334 列車は通り過ぎた 93 00:06:34,043 --> 00:06:39,084 目を開けると白い空に まだ大きな雲が漂っていた 94 00:06:39,084 --> 00:06:41,626 終わった 彼は助かった 95 00:06:48,168 --> 00:06:48,834 “紐を切れ” 96 00:06:48,834 --> 00:06:52,709 アーニーの指示で レイモンドが切る 97 00:06:52,709 --> 00:06:57,501 “足を ほどいてやれ” 彼は言う通りにした 98 00:06:57,501 --> 00:07:00,626 “まだ捕虜だぜ”とアーニー 99 00:07:00,626 --> 00:07:04,668 2人は湖へと ピーターを引っ立てた 100 00:07:04,668 --> 00:07:07,376 手首は縛られたままだ 101 00:07:07,376 --> 00:07:12,459 アーニーは銃を持っている レイモンドは双眼鏡だ 102 00:07:16,084 --> 00:07:19,834 湖は細長く 土手には柳が立っていて⸺ 103 00:07:19,834 --> 00:07:24,251 中程の水は澄んでるが 岸近くは草深い 104 00:07:24,251 --> 00:07:27,001 “こうしよう”とアーニー 105 00:07:27,001 --> 00:07:30,459 “お前は両腕 俺は両脚を持ち” 106 00:07:30,459 --> 00:07:33,043 “草地の泥へ 放り投げるんだ” 107 00:07:33,043 --> 00:07:35,751 “あれを殺(や)ろう”と レイモンド 108 00:07:35,751 --> 00:07:37,793 ピーターは すぐ見た 109 00:07:37,793 --> 00:07:43,043 水面から50センチほど高く 草を積み上げた巣があり⸺ 110 00:07:43,043 --> 00:07:47,293 湖の貴婦人のような 純白の白鳥がいた 111 00:07:47,293 --> 00:07:50,834 彼らへ首を向け 警戒している 112 00:07:50,834 --> 00:07:53,293 “きれいだ”とレイモンド 113 00:07:53,293 --> 00:07:56,834 アーニーは捕虜の腕を放し 銃を構えた 114 00:07:56,834 --> 00:08:00,418 “野鳥の保護区だ”と 懸命なピーター 115 00:08:00,418 --> 00:08:02,334 “だから?”とアーニー 116 00:08:02,334 --> 00:08:07,376 込み上げる怒りにピーターは 冷静を保とうとした 117 00:08:07,376 --> 00:08:09,793 “白鳥は一番の保護鳥だ” 118 00:08:09,793 --> 00:08:13,209 “巣ごもりで ヒナを抱えてるかも” 119 00:08:13,209 --> 00:08:16,626 “お願いだ 撃たないで やめて!” 120 00:08:18,209 --> 00:08:23,543 弾は白鳥の頭に命中し 長い首が巣の外へくずおれた 121 00:08:33,918 --> 00:08:34,751 開けろ 122 00:08:47,751 --> 00:08:50,126 “手をほどけ 猟犬だ” 123 00:08:50,126 --> 00:08:53,084 レイモンドは 手首の紐を切った 124 00:08:53,084 --> 00:08:55,543 “取ってこい” “イヤだ” 125 00:08:56,376 --> 00:09:02,168 アーニーの激しい平手打ちに 鼻血がぽたぽた落ちた 126 00:09:02,168 --> 00:09:05,834 “もう一回 イヤだと言ったら⸺” 127 00:09:05,834 --> 00:09:08,751 “その白い歯を全部 折ってやる” 128 00:09:08,751 --> 00:09:10,876 “上も下もだ いいな?” 129 00:09:10,876 --> 00:09:11,918 答えない 130 00:09:11,918 --> 00:09:14,209 “答えろ 分かったのか?” 131 00:09:14,209 --> 00:09:16,959 “ああ”と静かにピーター 132 00:09:17,834 --> 00:09:22,084 彼は泣きながら 土手を下りて水の中へ 133 00:09:22,084 --> 00:09:25,751 息絶えた白鳥を そっと抱え上げた 134 00:09:25,751 --> 00:09:31,668 その下に2羽の小さなヒナが 身を寄せ合っている 135 00:09:31,668 --> 00:09:34,001 “卵は?”とアーニーが叫ぶ 136 00:09:38,668 --> 00:09:41,043 “1つもない”とピーター 137 00:09:46,251 --> 00:09:48,918 彼は白鳥を岸へ運ぶと⸺ 138 00:09:48,918 --> 00:09:52,793 地面へ置き 立って 2人と相対した 139 00:09:52,793 --> 00:09:56,084 目は涙に濡れ 怒りに燃えている 140 00:09:56,084 --> 00:09:58,584 “死ぬべきは君たちだ” 141 00:09:58,584 --> 00:10:02,084 アーニーは一瞬だけ 面食らったが⸺ 142 00:10:02,084 --> 00:10:05,251 すぐ小さな目を ぎらつかせた 143 00:10:07,543 --> 00:10:09,043 “ナイフをよこせ” 144 00:10:11,668 --> 00:10:14,584 彼は白鳥の翼と 胴体をつなぐ⸺ 145 00:10:14,584 --> 00:10:18,168 関節部にナイフを入れ 腱を切った 146 00:10:18,168 --> 00:10:22,376 ナイフは よく切れ すぐに翼は離された 147 00:10:22,376 --> 00:10:25,126 もう片方も切り取られた 148 00:10:25,126 --> 00:10:27,709 “紐を”と彼は手を出す 149 00:10:30,251 --> 00:10:36,043 1メートルほどを8本切ると 翼の端に沿って結んでいった 150 00:10:36,043 --> 00:10:37,376 “腕を出せ” 151 00:10:40,668 --> 00:10:44,751 ピーターは5月の美しい朝 湖畔に立っていた 152 00:10:44,751 --> 00:10:49,543 血のしたたる翼を 両脇に気味悪く下げて 153 00:10:49,543 --> 00:10:52,668 アーニーは手を叩き 踊った 154 00:10:59,668 --> 00:11:01,834 “気が済んだ?” 155 00:11:01,834 --> 00:11:04,543 “白鳥は喋らねえ”と アーニー 156 00:11:04,543 --> 00:11:08,626 彼らは土手を進んで 高い柳の下へ来た 157 00:11:08,626 --> 00:11:13,376 上から枝が垂れ下がり 湖面に届きそうだ 158 00:11:14,126 --> 00:11:15,751 “なあ 白鳥さん” 159 00:11:15,751 --> 00:11:20,376 “この木の てっぺんに登り 翼を広げて飛べ” 160 00:11:20,376 --> 00:11:22,293 “すげえ”とレイモンド 161 00:11:22,293 --> 00:11:26,959 2人の手の届かぬ所へ 行くのは魅力的だ 162 00:11:26,959 --> 00:11:31,668 登ったら そこにいよう 2人は追ってこない 163 00:11:31,668 --> 00:11:36,376 来ても 体重で折れそうな 細い枝へ逃げる 164 00:11:36,376 --> 00:11:40,334 登りやすい木だ 低い枝が何本もある 165 00:11:40,334 --> 00:11:42,334 “登れ”とアーニー 166 00:11:42,334 --> 00:11:45,584 ピーターは 登れる限界まで来た 167 00:11:45,584 --> 00:11:48,709 足元の枝は大人の手首ほど 168 00:11:48,709 --> 00:11:53,084 湖へ遠く伸び しなやかに下がっている 169 00:11:53,084 --> 00:11:55,126 立ったまま休んだ 170 00:11:55,126 --> 00:11:57,584 高さは約15メートル 171 00:11:57,584 --> 00:12:01,459 2人の姿は見えなかった 172 00:12:01,459 --> 00:12:02,709 “よく聞け” 173 00:12:02,709 --> 00:12:08,043 2人は離れた所から 木の上の彼を見ていた 174 00:12:08,043 --> 00:12:09,376 見下ろすと⸺ 175 00:12:09,376 --> 00:12:13,376 いかに柳の葉が まばらで細いか 176 00:12:13,376 --> 00:12:15,334 これでは丸見えだ 177 00:12:15,334 --> 00:12:17,376 “枝の上を歩いて⸺” 178 00:12:17,376 --> 00:12:21,334 “泥水の所まで行ったら そこから飛べ!” 179 00:12:21,334 --> 00:12:26,168 ピーターは動かず 遠くの2人をじっと見た 180 00:12:26,168 --> 00:12:28,709 2人は彼を見上げていた 181 00:12:28,709 --> 00:12:33,793 “10数えてまだそこにいたら 撃ち落とすからな” 182 00:12:33,793 --> 00:12:37,793 “白鳥 2丁上がりだ いくぞ” 183 00:12:37,793 --> 00:12:41,709 “1 2 3 4” 184 00:12:41,709 --> 00:12:43,584 “5 6” 185 00:12:43,584 --> 00:12:48,043 ピーターは動かない もう絶対に動くもんか 186 00:12:48,043 --> 00:12:51,418 “7 8 9 10!” 187 00:12:51,418 --> 00:12:55,418 アーニーが彼に向けて 銃を構えた 188 00:12:55,418 --> 00:12:59,876 銃声がした 弾丸が 頭をかすめる音も 189 00:13:03,251 --> 00:13:05,209 怖いが動じない 190 00:13:05,209 --> 00:13:07,543 アーニーが弾を込める 191 00:13:07,543 --> 00:13:10,751 “最後のチャンスだ 次は外さねえ” 192 00:13:10,751 --> 00:13:15,959 ピーターはキンポウゲ畑で 子分を従えてる彼を見た 193 00:13:15,959 --> 00:13:18,168 また銃を構える 194 00:13:18,168 --> 00:13:21,543 銃声と共に 弾丸が腿に当たった 195 00:13:21,543 --> 00:13:24,334 痛みより衝撃が激しく⸺ 196 00:13:24,334 --> 00:13:30,126 大槌(おおづち)で一撃されたように 立っていた両足が払われた 197 00:13:30,126 --> 00:13:35,459 必死にもがいて つかまった 小枝がポキッと折れた 198 00:13:44,626 --> 00:13:49,084 ひどい仕打ちが 忍耐の限界を超えると⸺ 199 00:13:49,084 --> 00:13:51,709 ただ屈服する人間もいる 200 00:13:51,709 --> 00:13:53,918 だが 数は少ないが⸺ 201 00:13:53,918 --> 00:13:57,584 なぜか征服されない 人間がいる 202 00:13:57,584 --> 00:14:00,918 戦時だけでなく平時にも 203 00:14:00,918 --> 00:14:03,043 不屈の精神を持ち⸺ 204 00:14:03,043 --> 00:14:08,876 苦痛にも拷問にも 死の脅威にも あきらめない 205 00:14:08,876 --> 00:14:11,418 ピーターは そんな1人だった 206 00:14:11,418 --> 00:14:16,084 木の上から落ちまいと もがいている時⸺ 207 00:14:16,084 --> 00:14:19,959 ふと自分は 勝つだろうと思った 208 00:14:19,959 --> 00:14:23,209 見ると 湖の上に光が輝いて⸺ 209 00:14:23,209 --> 00:14:27,876 そのあまりの美しさに 目を逸(そ)らせなかった 210 00:14:27,876 --> 00:14:31,209 光は手招きし 呼んでいる 211 00:14:31,209 --> 00:14:35,209 彼は光に飛び込むと 翼を広げた 212 00:14:37,001 --> 00:14:42,126 その朝 上空を旋回する 白鳥を3人が目撃した 213 00:14:42,126 --> 00:14:46,084 小学校教師と 屋根の修理人の男と⸺ 214 00:14:46,084 --> 00:14:48,501 野原にいた少年だ 215 00:14:48,501 --> 00:14:51,584 皿を洗っていた ワトスン夫人は⸺ 216 00:14:51,584 --> 00:14:54,834 たまたま顔を上げた その時⸺ 217 00:14:54,834 --> 00:14:59,959 巨大で白い何かが 裏庭の芝生に落ちるのを見た 218 00:14:59,959 --> 00:15:01,709 外へ飛び出す 219 00:15:01,709 --> 00:15:05,668 膝をついた前には 息子の ぼろぼろの姿 220 00:15:06,501 --> 00:15:09,543 彼女は叫ぶ “私のかわいい子” 221 00:15:11,876 --> 00:15:13,126 “一体 何が?” 222 00:15:17,334 --> 00:15:22,251 ダールは新聞の実話から 「白鳥」の着想を得て⸺ 223 00:15:22,251 --> 00:15:27,251 1976年10月に書くまで 30年間 構想を温めていた 224 00:16:31,251 --> 00:16:33,251 日本語字幕 石田 泰子